中国,元代のチベット人パスパ(八思巴)が主としてモンゴル語,漢語(中国語)を書写するためにつくった文字で,1269年(至元6)〈蒙古新字〉あるいは〈国字〉として詔勅により公布された。チベット文字を方形にしたので〈方形字〉ともいう。それまでモンゴル人が使っていたウイグル文字にならって縦書きで,行は左から右へ追う。字母の数は公布時に41あったとされるが,50ぐらいに追加された。現存するパスパ文字資料は,モンゴル語,漢語を記した聖旨碑類が最も多く,次いで漢語印章が多い。そのほか,貨幣,牌子(旅行手形),木刻印刷などが少し残っている。チベット語印章もやや多いが,これは元朝滅亡(1368)後,中国ではすでに使用されなくなったパスパ文字が,チベットやモンゴルのラマ寺院で近年まで使われていたためである。なお漢語資料は,パスパ文字が表音文字であるため,13~14世紀の漢語の音韻状態を知るうえでとくに貴重だといえよう。
執筆者:中野 美代子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
中国、元のフビライ・ハン(世祖)が、チベットの高僧パスパ(八思巴)に命じてつくらせた表音文字。字形が角張っているところから、方形字ともよばれる。1260年パスパがこの文字をつくったが、まったくの創作ではなく、チベット文字をモンゴル語の表記に適するように改変したものであり、ウイグル式モンゴル文字を倣って、単語ごとにまとめて縦書きし、左から右に行を移すところに大きい特徴がある。
モンゴル民族統治下にある諸民族が使う正確な表音文字として誕生し、1269年に公布され、100年ほど使われた。勅命などの碑文、貨幣、牌子(はいし)、官印、私印などのほか、漢人の姓をパスパ文字で書いた「百家姓(ひゃっかせい)」と漢字の発音をパスパ文字で示した『蒙古字韻』が重要な資料として残っている。
[西田龍雄]
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