ギリシアの哲学者。生没年不詳だが,前450年に65歳ほどであったといわれる。南イタリアのエレアの人。エレア学派の祖とされる。その哲学的な教訓詩は,比較的大部な断片として残存しているが,それによると哲学の探究には三つの道がある。すなわち,〈ある〉もの,〈あらぬ〉もの,〈あり〉かつ〈あらぬ〉ものをそれぞれ探究する道があるが,〈あらぬ〉ものは探究不可能であるし,また〈あり〉かつ〈あらぬ〉ものは論理的矛盾を含むということで,第2,第3の道は拒否され,第1の道のみが〈真理〉への道として確保される。
ところで彼のいう〈ある〉もの(ト・エオンto eon)を理解するには,第3の道における何かで〈あり〉,かつ何かで〈あらぬ〉ものが生成変化するものを指していることに気づくべきである。彼のいう〈ある〉とは〈なる〉と対立し,〈なる〉を排除する〈ある〉なのである。彼にとっては〈ある〉という動詞の主語に当たるもの,すなわち〈ある〉ものは断じて生成変化しないもの,永遠に同一性を保つものでなければならない。彼のこの考えを命題の形にすると,〈A is A〉ということになり,〈is〉は永遠の自己同一性を示す。AはAそれ自身と同じものなのである。もし彼のいう〈ある〉を存在と訳すならば,存在とは,こうした意味での同一性を意味することになる。
さて彼は徹底的に生成変化を思索の道から排除した。〈あるものは不生にして不滅,全体にして唯一,また不動にして完全なり〉(断片8)。だが,こうした抽象的な唯一の〈あるもの〉では多なるものからなる世界,あるいは宇宙についての説明が成立しない。彼に続いたギリシアの哲学者たちはこのゆえに彼に反抗した。けれども例えば原子論者の原子(アトム)は不生不滅の変化することのないもの,永遠の自己同一性を保持するものである。すなわち多数の原子はパルメニデスの唯一の〈あるもの〉のいわば後継者であるということができる。プラトンのイデアも永遠に〈ある〉ものという意味で同様に〈あるもの〉の後継者なのである。
執筆者:斎藤 忍随
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古代ギリシアの哲学者。南イタリアの町エレアに生まれる。エレア学派の始祖。富裕な名門の出身で、町の指導者の一人であったらしく、エレア市民のために法律を制定したとも伝えられる。叙事詩の韻律である六脚韻を駆使して『ペリ・フュセオース』(自然について)を書きつづったが、いまは断片が残されているのみである。この著作は、序詩、第一部、第二部といった三部からなっている。序詩は、若いパルメニデスが日の神の娘たちの駆る馬車に乗り、暗い臆見(おくけん)の世界を去って明るい真理の世界へたどり着き、女神から真理と臆見について啓示を受ける、といった寓話(ぐうわ)的な舞台を設定する。第一部は、啓示された真理を歌い、「在るもの」(ト・エオン)があり「在らぬもの」(ト・メー・エオン)はないという前提から、不生不滅、不可分、不変不動であって、完結した丸い球に似ている、といった「在るもの」の属性を引き出し、「在るもの」をわれわれに示す理性のみが真理をとらえ、「多」や生成や消滅や変化を信じさせる感覚は誤謬(ごびゅう)の源であると説く。第二部は、誤謬に満ちた臆見を歌い、感覚の世界は「在るもの」(光)と「在らぬもの」(闇(やみ))という二つの「形体」(デマス)を併置し、両者からあらゆるものを合成するところに生じると説く。こうした思索が当時の思想界に与えた影響は計り知れない。
[鈴木幹也 2015年1月20日]
『藤沢令夫訳『パルメニデス』(『世界文学大系63 ギリシア思想家集』所収・1965・筑摩書房)』
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前515頃~前445頃
ギリシアの哲学者。生成とは「あらぬもの」が「あるもの」になることだとして,雑多なものの生成を拒否し,永遠に変わらぬ「あるもの」だけが真の意味で存在するという説を立てた。
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