認識論(読み)にんしきろん(英語表記)Erkenntnistheorie; epistemology

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

認識論
にんしきろん
Erkenntnistheorie; epistemology

知識論,知識哲学ともいう。哲学の一部門で,認識知識起源,構造,範囲,方法などを探究する学問。「認識論」という言葉自体は近代の所産であり,Erkenntnistheorieが最初に用いられたのは K.ラインホルトの『人間の表象能力新論の試み』 (1789) においてである。 epistemologyはギリシア語の epistēmē (知識) +logos (論理,方法論) に由来するが,この言葉が最初に用いられたのは J.フェリアーの『形而上学原論』 (54) においてである。もちろん認識の哲学的考察は古代,中世においても神の認識をめぐってなされたが,人間の主体の認識問題として哲学の中心部門に位置を占めるにいたったのは近世においてである。 J.ロックの『人間悟性論』はこの認識の問題の転回点に立つものであり,D.ヒュームらイギリス経験論により認識論の近代的性格はさらに明確にされ,I.カントにおいて大成された。カントの認識論は,認識を事実問題としてではなく権利問題とした点で「認識批判」の意味をもっている。認識論は形而上学と並んで哲学の二大部門をなすが,両者の関係については立場によって異なり,ロック,デカルト,カントらによれば認識論は形而上学に優先し,B.スピノザ,ヘーゲル,S.アレクサンダー,A.ホワイトヘッドらによれば逆であるとされる。

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デジタル大辞泉の解説

にんしき‐ろん【認識論】

《〈ドイツ〉Erkenntnistheorie認識の起源・本質・方法・限界などについて考察する哲学の一部門。知識論。

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百科事典マイペディアの解説

認識論【にんしきろん】

英語epistemology,ドイツ語Erkenntnistheorieなどの訳で,〈知識論〉〈知識哲学〉とも。知識・認識の本質・起源・根拠などを究明する哲学の一部門。英語,フランス語の原語はギリシア語エピステーメー(知識・認識)とロゴス(学問・理論)の合成に由来する。存在論あるいは形而上学と対比されて論じられることが多い。アリストテレスプラトンに発する経験論と合理論(理性論)の2大系譜,カントによるその総合がいわれるが,多くの認識論が拠る,数学に代表される科学的認識そのものが解体ないし再考されつつある現代にあっては,認識をも多様な存在関係の一つと見る新しい存在論の試みに比して,有力な革新はなされていない。

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世界大百科事典 第2版の解説

にんしきろん【認識論 epistemology】

知識の本質,起源,根拠,限界などについての哲学的な研究または理論をいう。〈認識論〉と訳される英語,フランス語は,ギリシア語のエピステーメーepistēmē(知識,認識)とロゴスlogos(理論)を結びつけて作られたもの。これらの言葉が広く用いられるようになったのは19世紀も半ば以後のことであるが,知識をめぐる哲学的考察の起源はもちろんそれよりもはるかに古く,たとえば古典期ギリシアにおいてソフィストたちの説いた相対主義の真理観にはすでにかなり進んだ認識論的考察が含まれていたし,ソクラテスもまたその対話活動のなかで,大いに知識の本質や知識獲得の方法につき論じた。

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大辞林 第三版の解説

にんしきろん【認識論】

〘哲〙 いかにして真正な認識が成り立つかを、認識の起源・本質・方法・限界などについて研究する哲学の一部門。認識の起源に関しては合理論と経験論が、認識の対象に関しては観念論と実在論が対立する。知識論。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

認識論
にんしきろん

認識論を文字どおりに解すれば、認識ないし知識に対する哲学的考察、または反省的研究ということになろう。だが、西欧におけるそのもとの術語の使い方を比較してみると、その力点の差異が示される。「認識論」はドイツ語Erkenntnislehre(theorie)の訳語である。ところで、英語epistemology, theory of knowledge、フランス語pistmologie, thorie de la connaissanceに対して、ドイツでは「エピステモロギー」という用語は一般に使われていない。イギリスではepistemologyとtheory of knowledgeとはほぼ同じ意味に用いられるが、フランスにおいてはかならずしも同義語ではなく、pistmologieとは文字どおり「エピステーメ」(科学知)の学なのである。独、英、仏と同じ西欧文化圏に属しているのでその差異を無視しがちであるが、その差異にまた認識批判Erkenntniskritikという言い方がドイツで重視される所以(ゆえん)が存している。[神川正彦]

科学的認識論と哲学的認識論

今日、認識論は、学問状況を正しく受け止めるならば、まず二つに大別されよう。哲学的認識論と科学的認識論である。もちろん相互の関係を軽視してはならないが、また逆に、認識論とは、存在論ないし形而上(けいじじょう)学と並ぶ哲学の一大部門と規定することにとどまることはできない。哲学は「認識とは何か」というような全体的な問いにかかわらざるをえないが、科学は逆に研究対象を限定して厳密な方法で解明することを目ざす。代表的な例でいえば、心理学者J・ピアジェが一つの科学として「発生的認識論」を追究しようとするのも、そのためである。科学的認識論とは一般的にいえば、心理学的検証にかなう「認識ないし認知の科学」として構築されることを求めるものということができよう。このような科学的な状況を反映して、哲学的認識論も、一般的に認識とは何かと問うのではなく、「エピステーメ」の学として、科学知を対象とする科学哲学的探究や、知る、信ずるなど人間の基本経験の言語的・論理的分析を求めるという傾向を強めている。この意味において、哲学的認識論に対して、「古典的」と「現代的」というような識別が必要だとも思われるが、古典的認識論の問題が古くなってしまったわけではない。[神川正彦]

認識論の形態

哲学的認識論の古典的形態は、一般に三つの問題に整理され、それをどう考えるかによって種々の立場が区別される。(1)認識の起源、(2)認識の本質(妥当)、(3)真理の問題、である。(1)認識の起源の問題は、認識の源泉をどのようにとらえるかで基本的には四つぐらいの立場に分かれよう。〔1〕経験主義 認識の起源を経験的に感覚に求めるもので、ロックなどイギリス経験論によって形成された。〔2〕合理主義 逆に理性や悟性の知的活動に源泉をみる。デカルト、スピノザ、ライプニッツなど、近世哲学の黄金時代を告げる大陸合理論によってうちかためられた。〔3〕批判主義 経験論と合理論との総合を求めたカントによって開かれた。認識論が哲学の一大部門として位置づけられるのもカントの功績である。認識批判がほぼ認識論と同義に使われるのも、そのためである。〔4〕直観主義 神秘主義や現象学を含めて、直観に源泉を置く見方である。(2)認識の本質の問題は古典的認識論の基本構造をあらわにする。それは、認識主体としての主観と認識客体としての客観(対象)との二項的対置構造において認識をとらえようとするからである。そのいずれの項に基本を置いて認識の本質を規定するかで、基本的には二つの立場が大別される。実在論と観念論である。この術語はあまりにも多義的なので、ここでは、客観の項に重きを置く客観主義と、主観の項に重きを置く主観主義と整理したほうがよいであろう。しかし、このような〈主観―客観〉の二元構造こそ、現代的認識論にとっては乗り越えられねばならない当の問題にほかならない。(3)真理の問題は、主要なものに限れば、四つぐらいの見方にまとめられよう。〔1〕対応説 もっとも素朴には模写説から始まるが、弁証法的唯物論の反映説まで、きわめて根強いものがある。〔2〕明証説 意識に対して明晰(めいせき)判明に明証的に現れるものを真理とみる。デカルトに由来する。〔3〕有効説 行為の結果の有効性で真偽を判定する。プラグマティズムの立場である。〔4〕整合説 認識が体系内で論理的に矛盾がないかどうかで判定する。これは、対応説とは逆に、対応すべき実在なりリアリティーなりが失われてしまった今日の、より高度な科学的認識の実状にはマッチしている。
 現代的認識論は、以上の問題を課題として受け止めながらも、一方で、今日の自然・社会・人間諸科学の展開に対応しつつ、科学的認識の論理的構造分析として、他方で、知る、感ずる、信ずる、言うなどというような基本的な人間経験の言語分析として、より根源的なレベルから科学知や認識・認知の在(あ)り方をめぐって未来の展望を開こうと求められているということができよう。[神川正彦]
『G・バシュラール著、竹内良知訳『科学認識論』(1974・白水社) ▽J・ピアジェ著、田辺振太郎・島雄元他訳『発生的認識論序説』全三巻(1975~80・三省堂) ▽R・ガロディ著、森宏一訳『認識論』全二冊(1956・青木書店) ▽高橋里美著『認識論』(1940・岩波書店) ▽沢田允茂著『認識の風景』(1975・岩波書店) ▽P・ファイヤアーベント著、村上陽一郎・渡辺博訳『方法への挑戦』(1981・新曜社)』

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