改訂新版 世界大百科事典 「パロディ」の意味・わかりやすい解説
パロディ
parody
戯文,もじり詩文,狂詩などの訳語をあてる。語源はギリシア語parōidiaで,para(擬似)+ōidē(歌)を意味する。一般的には,よく知られた詩人や作家の文体上の特徴を巧みにまねして,しかも内容を下品,滑稽に変えるなどの操作でからかったりする場合を指す。しかしもう少し深く広く理解すれば,パロディとは人間の表現衝動の根源に根ざしているものかもしれない。たとえば日本で狂言が能と裏表に組合せで上演されるのは,前者が後者のパロディとしての性格をもつからではなかろうか。西欧のキリスト教会のミサは,その全部の儀式をそっくり裏返した〈黒ミサ〉を生み,魔女の集会で大まじめに営まれた。これもパロディである。音楽の歴史では,西洋でも日本でも,特定の旋律を他のコンテキストに〈引用〉したり,特定の歌詞を別の旋律で処理したりする場合が少なくなかったが,これらもパロディであって,しかも目的はからかうことではなく,むしろ原作者に対する敬意の表明である場合が多い。文芸では日本の〈本歌取り〉の技法がこれに近いといえよう。西欧現代文学でも,たとえばT.S.エリオットが《荒地》の中でE.スペンサーその他の先人を〈引用〉し,ジョイスが《ユリシーズ》の中でホメロスの《オデュッセイア》の構造的卑俗化・現代化を行っている。これもパロディであるが,べつに古典作品をからかっているわけではなく,自己の表現様式をパロディ操作の上に築いているのである。芭蕉の〈此梅に牛も初音と鳴つべし〉は,明らかに〈梅にうぐいす〉という因襲的抒情のパロディであるが,むしろ俳句というジャンルが,短歌的抒情のパロディとして成立するという側面を見るべきではなかろうか。フォルマリスムから構造主義,そしてポスト構造主義の思潮は,表現行為そのものをパロディとしてとらえているともいえるだろう。
→風刺
執筆者:川崎 寿彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報