パートタイム・有期雇用労働法(読み)ぱーとたいむゆうきこようろうどうほう

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

パートタイム・有期雇用労働法
ぱーとたいむゆうきこようろうどうほう

パートタイム労働者(短時間労働者)・有期雇用労働者と正社員の間の不合理待遇格差の是正などを目的とする法律。正式名称は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(平成5年法律第76号)。パートタイム・有期労働者法、パート・有期法などともいう。

 パートタイム労働者および有期雇用労働者は、いわゆる非正規労働者であり、正社員と比べて賃金等の労働条件が低いことが問題とされてきた。そこで、本法は、一般にフルタイムかつ無期雇用であることが想定される正社員を「通常の労働者」と呼称しつつ、1週間の所定労働時間が相対的に短い労働者を「短時間労働者」として、また、期間の定めのある労働契約を締結している労働者を「有期雇用労働者」として定義したうえで、主として次のような規律を設けることにより、そのような労働条件格差への対処を試みている。

 第一に、通常の労働者との間の待遇にかかる差別的取扱いを禁止する均等規制が設けられている。すなわち、職務の内容(業務の内容および当該業務に伴う責任の程度)が通常の労働者と同一であって、雇用関係終了までの全期間にわたって、その職務の内容および配置が当該通常労働者と同一の範囲で変更されることが見込まれる短時間・有期雇用労働者については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならないと規定されている(9条)。これは、差別的取扱いを禁止する点で強度の規制であるが、その反面、違反とされる範囲が狭く、規制対象を限定的にとらえている規制であるといえる。

 第二に、通常の労働者との間における不合理な待遇の相違を禁止する均衡規制が設けられている。すなわち、短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、職務の内容、当該職務の内容および配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質および当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を通常の労働者との間に設けてはならないと規定されている(8条)。これは、均等規制とは異なり、不合理な相違を禁止するにとどまるものであって、通常の労働者との間に待遇の相違を設けること自体は許容するものである(その意味において、この規定は同一労働同一賃金を定めるものではない)。そのため、規制の強度は相対的に弱いといえるが、その反面、規制対象を広くとらえうるものであり、より柔軟な規制が行える点に特徴がある。

 第三に、待遇の相違についての説明義務が定められている。すなわち、事業主には、短時間・有期雇用労働者からの求めに応じて、それらの者と通常の労働者との間の待遇の相違の内容および理由について直接説明する義務が課せられている(14条2項)。これは、あくまで手続的な規律にとどまり、労働契約の内容自体に対する実体的な規律を行うものではないものの、事業者の説明に疑問がある短時間・有期雇用労働者が、前記の均等・均衡規制を根拠として損害賠償請求等を求める訴えを起こす可能性がある。それを回避すべく、事業者が、説明に窮するような待遇の相違の設定を任意に控えることが想定されるため、それら規制の実効性の向上や紛争予防が期待される。

 ところで、本法は、当初、短時間労働者のみを対象とするものであり、名称も「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(「パート労働法」などと略称。以下、旧法)であった。他方で有期雇用労働者については、別途、労働契約法の旧20条が均衡規制を置いていた。もっとも、短時間労働者の契約には期間が定められることが少なくなく、両者は実態として重複しうるため、それらの異なる条文が重畳的に適用される可能性があった。これを踏まえると、短時間・有期雇用労働者については、両者をあわせた体系的な制度設計を行うことが望ましい。2018年(平成30)の働き方改革関連法(正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」。平成30年法律第71号)により、労働契約法の旧20条を削除しつつ(本法8条に吸収させつつ)、有期雇用労働者に適用対象を拡大させる形で旧法が改められ、本法が制定されたことは、この点に資するものと評価される。

 以上のほかにも、行政上の紛争処理システムが整備されている。すなわち、都道府県労働局長による紛争解決援助(24条)や紛争調整委員会による調停(25条、26条)などが定められている。裁判所による紛争解決は、当事者間の対立構造を先鋭化しつつ、強制的な解決を図るという側面があるのに対して、前記の行政上の制度を用いれば、当事者双方の意見を取り入れつつ、互いに譲歩した形での柔軟な紛争解決が可能となる。実際にも、本法8条をめぐる紛争について、労働局長による助言・指導により労使間での自主的な紛争解決を目ざす事例や、紛争調整委員会(この場合には「均衡待遇調停会議」ともいう)による調停の事例が複数生じており、これらの制度は本法上の紛争解決の手段として有意義に機能していることがうかがえる。

[土田道夫・岡村優希 2021年3月22日]

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