翻訳|part-timer
通例、1日の所定労働時間が同一企業の正規の労働者より短い者、あるいは1日の所定労働時間が同じであっても、1週の所定労働日数が正規の労働者より少ない者をいう。しかし、日本のパートタイマーのなかには正規労働者と同程度の労働時間働く者や、残業をする者も含まれているため、総務省の「労働力調査」や「就業構造基本調査」では、職場でパートタイマーとよばれている労働者をパートタイマーと定義している。パートタイマーとアルバイトの区別も企業の呼称によるもので、明確な違いはない。
1970年代後半以降、企業の減量経営戦略のもとで、人件費の削減などを目的として、パートタイマーは正規労働者にかわって幅広く採用され、いまや企業の生産過程や営業活動のなかで不可欠の存在となっている。また、職種や仕事の内容も正社員と変わらないケースが増えている。日本のパートタイマーのなかには正社員と同じくらい長時間働くパート(フルタイムパート)がパート全体の2割近く存在している一方で、使用者がパート本人の意思に反して就労時間を短縮し、社会保険の適用や、ボーナス・退職金の支給を免れる事例も少なくない。短時間パートのなかには生活に必要な収入を得るために二つの仕事をかけ持ちして働く人もある。
パートタイマーは1980年代から21世紀の今日まで一貫して増え続けている。「就業構造基本調査」によれば、1987年(昭和62)時点でパートタイマー総数は468万人(全労働者の10.9%)であったが、2017年(平成29)には1032万人(同15.6%)に達した。このうち約9割(917万人)が女性である。産業別にみると、卸売・小売業で働くパートがもっとも多く(246万人)、これに医療・福祉(211万人)、製造業(120万人)が続いている。減少傾向にあるが、製造業に従事するパートタイマーが多いのも日本の特徴である。
パート労働者の時間当り賃金は一般労働者の賃金の6割程度である。これに退職金や社会保障費を加味すれば、パート労働者の人件費は一般労働者の人件費のおよそ半分にとどまる。厚生労働省「平成28年パートタイム労働者総合実態調査」によれば、企業がパートタイマーを利用する理由のなかでもっとも多いのが「1日の忙しい時間帯に対処するため」(41.6%)で、ついで「人件費が割安なため(労務コストの効率化)」(41.3%)、「仕事内容が簡単なため」(36.0%)となっている。
パートタイマーの就労動機は男女別で異なっている。同調査では、女性パートの場合、「主たる稼ぎ手ではないが、家計の足しにするため」(39.9%)がもっとも多いのに対し、男性パートでは「家計の主たる稼ぎ手として、生活を維持するため」(52.6%)がトップである。また、女性パートの多くは「自分の都合の良い時間(日)に働きたいから」(60.2%)、「勤務時間・日数が短いから」(43.3%)など自らこの雇用形態を選択しているとみられる割合が高いが、その背景には男女の性別役割分業、つまり夫の長時間過密労働と妻への家事労働の集中という問題がある。
欧米諸国でも日本と同じくパートタイマーは増加しており、就業者に占める比率はオランダでは37.3%に達し、イギリス、ドイツ、デンマークでは2割を超えている(労働政策研究・研修機構『データブック国際労働比較2019』)。しかし、正規労働者と比べた労働条件の格差は日本ほど大きくはない。ILO(国際労働機関)は1994年にパートタイム労働に関する条約(175号条約)を採択したが、この条約は労働者としての権利(団結権、団体交渉権、労働安全衛生面や雇用上の差別に対する保護)、賃金や休暇などの労働条件、社会保障などについて、パートタイマーが、対応するフルタイム労働者(正規労働者)との均等待遇を保障されるように各国政府が国内的措置をとることを求めている。また、EU加盟国に対して法的拘束力をもつパートタイマーに関する指令(1997)にも「パートタイム労働者は雇用条件において比較可能なフルタイム常用労働者に比較して不利な扱いを受けるべきではない」という均等待遇原則が盛り込まれている。
日本政府は1993年(平成5)にパート労働法(「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」、平成5年法律第76号)を制定したが、パートタイマーの労働条件の改善について実効性が乏しく、労働組合は改正の必要を求めていた。2007年に成立した改正パート労働法は「職務(仕事の内容および責任)」、「人材活用の仕組みや運用(配置転換など人事異動の有無や範囲)」、「雇用契約期間」の三つの基準に沿って「短時間労働者」を4種類に区分して、労働条件の引上げを図った。具体的には、(1)職務や人材活用の仕組みが正社員と同じで、雇用契約期間の定めがない者(期間が定められていても契約更新により実質的に期間の定めがない場合を含む)、(2)職務や、一定期間の人材活用が同じであるが、雇用契約期間が正社員と異なる者、(3)職務は同じであるが、人材活用および雇用契約期間が正社員と異なる者、(4)三つの基準のいずれも正社員とは異なる者、の4区分である。このうち賃金、教育訓練、福利厚生はじめすべての労働条件について正社員との差別的取扱いを禁止されたのは(1)のみである。この改正パート労働法の対象は短時間労働者のため、正社員と同様に長時間働くパートタイマーは除外されていること、国際的基準に比較し正社員との均等待遇措置が弱いことなど問題点も多いとされた。
[伍賀一道]
2020年(令和2)4月に施行された改正法では、有期雇用労働者も同法の対象に含まれることとなり、法律名も「パートタイム・有期雇用労働法」(「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)に改題された。
[編集部 2021年3月22日]
『三富紀敬著『欧米女性のライフサイクルとパートタイム』(1992・ミネルヴァ書房)』▽『厚生労働省編・刊『平成18年パートタイム労働者総合実態調査報告』(2008)』▽『厚生労働省編・刊『平成19年就業形態の多様化に関する総合実態調査』(2009)』▽『厚生労働省雇用均等・児童家庭局編『女性労働の分析 2008年』(2009・21世紀職業財団)』
ILOの定義によれば短時間労働のこと。日本でパートタイムという表現を用いた短時間労働者の募集広告が初めて新聞に登場したのは1954年である。以来,高度経済成長の過程では,主として若年労働力不足の対応策として,また,低成長期には,人件費の節減や雇用調整を容易にするための方策として,パートタイマーの雇用は着実に増大してきた。その要因としては,技術革新により不熟練労働の就業可能分野が拡大したこと,多くの人手を要する第3次産業の急速な成長などが挙げられる。さらに供給側の要因として,働く場を求める家庭の主婦が増大したことも見逃せない。出生児数の減少や家事の省力化に伴う余暇時間の増大,教育費や住宅費などの増大などの事情によるものである。
日本でパートタイマーと呼ばれる人は,労働省〈パートタイム労働者総合実態調査〉(1995)によれば669万人を数える。その特徴は,(1)女性が95%を占め,その74%が35歳以上の中高年,(2)製造業,卸売・小売業,飲食店,サービス業などを中心に生産,販売の仕事に従事,(3)平均通算就労年数は6.7年(女子のみでは7.2年)で,アルバイトのように浮動的ではない,(4)賃金は約85%が時間給,時間給制の男女平均時給856円(女子のみでは809円),と要約できる。このように,日本のパートタイマーは,すべてがILOの定義(1964)に示されるような短時間労働者ではなく,正規従業員に対して身分上そう呼ばれる者も含まれている。
パートタイマーの労働力としての評価には,(1)その増加は経済社会の変化の所産であり,その意義を積極的に認めて新しい雇用秩序をつくるべきだという見解と,(2)それは女性労働力の窮迫販売であり,新しい低賃金労働を拡大するという見解とがある。また,将来,人口の高齢化が進むなかで,男性高年齢者がパートタイム労働市場に参入してくることも考えられる。
→縁辺労働力
執筆者:足立 喜美子
パートタイマーといえども労働時間が短いというほかは,正規従業員と同様,労働基準法にいう労働者(労働基準法9条)であるから,労働基準法,最低賃金法,労働安全衛生法,労働者災害補償保険法など労働保護に関する諸法規の全面適用を受ける。また,パートタイマーの解雇については,期間の定めなく雇用されている場合には使用者は当然に解雇予告義務(労働基準法20条1項)を負う。他方,パートタイマーは労働組合法にいう労働者(労働組合法3条)に該当するから,労働組合の結成あるいは加入についても自由であり,団体交渉の要求などの権利も保障されるから,使用者がこれに干渉することは不当労働行為として許されない(労働組合法7条)。
しかし,パートタイマーに対する実際の雇用管理をめぐっては,多様化する就業意識や就業実態を踏まえての適切な管理がこれまで行われていないことが多かったことから,1993年には〈短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律〉(いわゆる〈パートタイム労働法〉)が制定された。同法は1週間の所定労働時間が通常の労働者に比べて短い労働者について,その雇用管理の改善をすすめるべく,労働条件に関する文書の交付,就業規則の作成・変更時に短時間労働者の過半数の代表者から意見を聴取すること,短時間雇用管理者を選任することなどを雇用主の努力義務とする一方,国および都道府県が職業訓練や職業紹介について配慮すべきことなどを定めている。
執筆者:奥山 明良
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…そのため女子の失業は,女子雇用の激減する景気後退期にも目だって増加することは少なく,かえって景気回復期に女子の雇用が伸びだしたときに増加する傾向が認められる。縁辺労働力の主力は,昭和30年代には農家の主婦であったが,全国的な都市化と都市におけるパートタイマーの職場の拡大のため,近時では都市勤労者世帯の主婦に移っている。【梅村 又次】。…
…直接生産者が,通常,家庭を仕事場として,単独あるいは家族とともに,みずから調達するか,仲介人または業者から供給をうけた簡単な機械や器具,原料をもって,委託加工を行い,加工賃をうる労働をいう。資本に従属的な労働である点で,家内工業と区別される。資本主義の初期においては,家内労働が独立の経営としての家内工業をになっていたが,工場制度の発達にともなって,それがしだいに分解し,工場労働の周辺部に,世帯主以外の家族による家計補助的な内職的家内労働が,広範に行われるようになった。…
…先進国における女性の経済的地位が発展途上国に比べて相対的に高いのは,基本的には労働運動の強弱によるが,賃金水準の違いからくる生活の合理化,家事労働からの解放の程度の差,保育や介護などの社会施設などの整備,教育および技術の修得機会の増大,女性労働保護と労働条件の整備などが,ある程度前進してきているためである。第2次大戦後は先進資本主義国を中心に既婚女性の労働力化(とりわけパートタイマー化)が著しいが,女性労働のこのような性格は,基本的に克服されていない。 日本の女性労働は,第2次大戦前には低い生活水準に基づく労働力の販売と身分制度や家父長的家族制度が加重されて,劣悪な労働条件のもとにあった。…
※「パートタイマー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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