古代インド,前5~前4世紀の文法学者。通常《パーニニ文典(文法)》の名で知られる《アシュターディヤーイーAṣṭādhyāyī(八章編)》の著者。彼はベーダ語(ベーダの時代に用いられていたサンスクリットの古語)の用例を顧慮しつつ,〈文法を学ばずして,正しい語法をわきまえた人士〉の言語使用に範を取り,その当時西北インドに〈話し言葉〉とされていたインド・アーリヤ語に規矩を与え,サンスクリットをインドの文章語,雅語,聖語として定着させた。8章のおのおのはそれぞれ4節に分かれ,全体は約4000のスートラ(経,短文)より成るが,各スートラは記憶の便を考慮して略符号を用いつつ,極度に圧縮された短い規則を含んでいる。彼はサンスクリットをきわめて客観的かつ正確に観察することによって,言語を意味のある最小単位(前接辞,語根,接尾辞,人称語尾など)に分解し,この客観的分析の結果を文章中に再編成する間に規則を導き出した。そして,それらはサンスクリットの音韻論,形態論,造語法,文章論にわたり,また歴史的・地理的方言差にまで言及している。その言語の客観的分析,帰納的研究方法は,近代言語学に貢献するところが少なくなかった。
パーニニの学派はカーティヤーヤナ,パタンジャリの巨匠によって継承され,この3人を文法の三聖と称するが,非パーニニ系統の文法綱要書に《カータントラ》があり,これはベンガル,カシミールから中央アジアに流布し,カッチャーヤナのパーリ語文法,ドラビダ語文法にも影響し,チベットにも伝えられた。
執筆者:原 実
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生没年不詳。紀元前5~前4世紀ころの古代インドの著名な文典家。西北インドの人。その著『アシュターディヤーイー』Aādhyāyī(『パーニニ文典』とも)によって不朽の名を残す。本書は、サンスクリット語の文法規則を記号化し、きわめて簡潔な文体でまとめたものだが、これにより古典サンスクリットが「正しい(サンスクリタ)」規範を与えられたと同時に、文法学も単なるベーダの補助学から、完全に一つの独立した学問として体系組織化されるに至った。パーニニの文典はその後のインドにおける文法学の発達に確かな礎(いしずえ)を提供したばかりでなく、近代言語学の発達にも少なからず貢献している。
[矢島道彦 2018年7月20日]
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生没年不詳
古代インドの文法家。前5~前4世紀の人。伝記はわからないが,『アシュターディヤーイー』という8章からなる古典サンスクリット文法の簡潔な規則を記した書をつくった。これはインド文法学の権威ある書として,後世多くの注釈書,解説書が著された。
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