ヒラマサ(読み)ひらまさ(英語表記)yellowtail amberjack

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒラマサ」の意味・わかりやすい解説

ヒラマサ
ひらまさ / 平政
yellowtail amberjack
[学] Seriola aureovittata

硬骨魚綱スズキ目アジ科ブリモドキ亜科に属する海水魚。北海道以南の日本海と太平洋の各地の沿岸域、奄美(あまみ)大島、沖縄県、小笠原(おがさわら)諸島の海域東シナ海、朝鮮半島、黄海などの北西太平洋の温帯域に分布する。体は細長く、側扁(そくへん)する。体の背腹の外郭はほとんど同様に湾曲する。上顎(じょうがく)の後端は瞳孔(どうこう)の前縁下に達し、その上角部は丸い。上下両顎の歯は微細で幅の広い歯帯になる。鋤骨(じょこつ)(頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨)にくさび形の歯帯がある。鰓耙(さいは)は上枝に7~10本、下枝に15~20本。第1背びれは6~7棘(きょく)、第2背びれは1棘30~36軟条。臀(しり)びれは1棘17~22軟条で、前方に2本の遊離棘がある。第2背びれと臀びれの前部軟条はわずかに伸長する。胸びれ腹びれより短い。腹びれは胸びれ基底の後縁よりも後方から始まる。側線は第2背びれの17~18軟条下まで緩く湾曲し、その後は尾柄(びへい)まで直走する。稜鱗(りょうりん)(鋭い突起を備えた肥大した鱗(うろこ)。一般には「ぜんご」「ぜいご」ともいう)はないが、尾柄部の側線上に肉質の弱い隆起がある。体色は背方が鮮青色で、腹方は白色。体の側面に吻(ふん)から尾柄まで明瞭(めいりょう)な黄色の縦帯が走る。腹びれは黄色、そのほかのひれは淡緑色で、縁辺は黄色。沖合いの水深50メートルくらいに大きい群れですむが、ときどき餌(えさ)を追って表層近くに現れる。おもにカタクチイワシ、アジ類などの魚類、イカ類、アミ類を食べる。産卵は高知県や五島(ごとう)列島の海域では4月中旬~5月ころに行われ、分離浮性卵を産む。孵化仔魚(ふかしぎょ)は全長3.5ミリメートル前後。稚魚は同属のブリやカンパチと異なり沖合いの流れ藻にはつかないと考えられている。流れ藻につくブリやカンパチの稚魚が黄褐色をしているのに対し、ヒラマサの稚魚は背面が青く、腹面銀白色を呈する。1年で尾叉長(びさちょう)40センチメートル、2年で65センチメートル、4年で95センチメートルあまりに成長する。沿岸の巻網定置網、釣りなどで漁獲され、ブリよりも高級。夏季に美味で、塩焼き、煮つけ、干物などにされる。

 ブリに似ているが、ヒラマサは体の側扁度が強く、体側の黄緑色縦帯の色が濃く、主上顎骨の後端上角が丸みをもち、胸びれは腹びれよりも短いなどの特徴で区別される。また、ブリより大きくなり、全長2メートルに達する。同じブリ属のカンパチにも似ているが、ヒラマサには目を通る暗色帯がないこと、目が吻端から尾柄を結ぶ体軸上かそれより下方にあることなどで区別できる。

 本種は世界の海域に分布し、S. latandiの学名が使われていたときもあったが、生物学研究者ナタリー・マルティネス・タケシタNatalie Martinez-TakeshitaらはDNAの解析と形態的な特徴に基づいて、北西太平洋に分布するS. aureovittata、北東太平洋に分布するS. dorsalisおよび南半球に分布するS. lalandiの3種に分けた(2016)。それにより、日本産は北西太平洋に分布するS. aureovittataとされた。

 なお、ヒラマサとブリの自然交雑個体が知られている。また近畿大学では両種の交雑個体を生産し、「ブリヒラ」と称している。

[鈴木 清・尼岡邦夫 2023年11月17日]

釣り

船釣り、磯(いそ)釣りがある。船釣りは地方によって仕掛けがかなり異なる。静岡県伊豆地方の遠征船は、胴づき一本鉤(ばり)で生きたムロアジの一尾づけ、またはコマセ籠(かご)を使いオキアミやサンマの身餌(みえさ)でねらう。千葉県勝浦(かつうら)地方では、大きな天ビンとゴムクッションの併用でフカセ釣りをする。ヒラマサは引きと走りが抜群なので、鉤にかけた魚を半分取り込めばよいほうである。伊豆諸島などの磯釣りで、ヒラマサ釣りがここ数年人気を集めだした。ヒラマサ用のじょうぶな磯竿(いそざお)に道糸12~16号。ウキとゴムクッション仕掛け、または寄せ餌を入れる籠をつけた籠釣り、ムロアジの生きたものを1尾つけた泳がせ釣りなどがある。ヒラマサ釣りは、足場の確保と救命具着用と、安全第一で釣ることが肝要である。

[松田年雄]


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改訂新版 世界大百科事典 「ヒラマサ」の意味・わかりやすい解説

ヒラマサ
Seriola aureovittata

スズキ目アジ科でブリと同属の海産魚。体型はブリと似ているが側扁度が強いため,ヒラ(京都),ヒラサ(広島など),ヒラス(関西,九州),ヒラソ,ヒラブリ(鳥羽)とヒラとつく呼名が多い。ヒラマサは東京付近の名。また,ブリ類を総称して英名をamberjack,あるいはyellowtailというが,とくにヒラマサをgoldstriped amberjackということがあるように,体側の黄色の1縦帯がブリより濃く顕著である。ブリより暖海性。西南日本にふつうで,黄海に多い。ブリと違って稚魚は流れ藻につかない。全長1m以上になり,大きいものでは2mに達する。ブリと逆に夏がしゅんで,夏にはブリより美味とされる。冬は味が落ちる。刺身,すし種,照焼き,煮つけにされる高級魚である。釣り,定置網で漁獲される。まれにシガテラ毒をもつことがある。
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百科事典マイペディア 「ヒラマサ」の意味・わかりやすい解説

ヒラマサ

アジ科の魚。地方名ヒラス,ヒラソなど。全長1m余になり,ときに2mに達する。ブリに似るが体の厚みが小さく,体側中央の縦帯は濃い黄色。ブリより暖海性。西南日本ではふつうで,黄海に多い。美味で刺身,すし種などにする。まれにシガテラ毒をもつ。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒラマサ」の意味・わかりやすい解説

ヒラマサ
Seriola lalandi

スズキ目アジ科の海水魚。全長 2.5m。ブリに似た魚で,体はよく太った紡錘形。体の背面は暗青色,腹面は銀白色で,体側中央に濃い黄色の縦帯がある。北海道以南,世界の温帯・亜熱帯海域に分布する。夏季に美味。

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