イギリスの経済学者。軍人の家に生まれる。ハロー校、ケンブリッジ大学キングズ・カレッジに学び、1902年同カレッジのフェロー。ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ講師、ケンブリッジ大学講師を経て、1908年、師A・マーシャルの後継者としてケンブリッジ大学の(当時ただ一人の)経済学教授に就任(~1943)。この間さまざまな政府関係委員会の委員となり、また非常に多くの著書・論文を著したが、もっとも著名なのは、第一次世界大戦前に刊行された『富と厚生』Wealth and Welfare(1912)を大幅に増補改訂した『厚生経済学』The Economics of Welfare(初版1920、第4版1932)である。同書で彼は、一般的厚生のうち直接間接に貨幣という測定尺度で測りうる部分(より具体的には国民所得によって表現しうるもの)を経済的厚生とよび、他の条件にして等しい限り、(1)国民所得の増大、(2)国民所得の分配の平等化、(3)国民所得の変動の減少は、それぞれ経済的厚生の増大をもたらすという、有名な「厚生経済学の三命題」を提示し、第三命題はのちに『産業変動論』A Study in Industrial Fluctuations(1926)に分離され、第二命題は30年代にL・ロビンズやK・G・ミュルダールによって批判されたりしたが、厚生経済学と今日もよばれている経済学の一分野を創始した。また、『失業の理論』The Theory of Unemployment(1933)は、ケインズ的意味での「古典派」の雇用理論の代表としてケインズによって手厳しく批判されたが、政策提言面では、ピグーは教授就任講演時以来、不況対策としての公共政策の有効性を説き続けており、1920~1930年代の不況時に際して失業対策としてピグーが説いたのは賃金切下げだけだった、という準定説は、事実問題として完全な誤りである。
[早坂 忠]
『篠原泰三訳『失業の理論』(1951・実業之日本社)』▽『鈴木諒一訳『雇用と均衡』(1951・有斐閣)』▽『永田清他監訳『厚生経済学(原書第4版)』全4冊(1953~55・東洋経済新報社)』▽『熊谷尚夫著『厚生経済学』(1978・創文社)』▽『T・W・ハチスン著、早坂忠訳『経済学の革命と進歩』「第6章」(1987・春秋社)』
イギリスの経済学者。イングランドのワイト島に軍人の子として生まれる。A.マーシャルの後継者として1908年に母校ケンブリッジ大学の経済学教授となり,44年まで在職した。また通貨や税制などの政府委員会に関与して実際界でも活動している。著書は30冊に近く,パンフレットや論文は100編をこえる。彼の名を高めた《厚生経済学》(1920,4版1933)は,社会の経済的厚生ないし福祉を最大にするという目標からみて,自由な市場経済のはたらきはどこまで有効で,どこに欠陥をもつかを明らかにし,それを是正するための経済政策の理論を展開している。ピグーはまた早くから労働問題や失業問題に関心をいだいていたが,とくに《失業の理論》(1933)はケインズの激しい批判の対象となった。ピグーは当初これに強く反発したが,後にはケインズの貢献を高く評価するようになった。そうした総合的な立場は彼の《雇用と均衡》(1941)に示されている。なおケインズ派との論争の過程において,賃金と物価が低落すれば人々の保有する貨幣的資産の実質価値が高まり,それが消費を増加させるかもしれないという考え方が示唆され,これは〈ピグー効果Pigou effect〉(実質残高効果ともいう)と呼ばれるようになった。
→厚生経済学
執筆者:熊谷 尚夫
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…外部効果がもつ重要な経済的意味は市場機構の効率的な運行を妨げ,いわゆる〈市場の失敗〉を生むことである。効率性を回復するための手段として,A.C.ピグーは外部経済を発生する経済主体に補助金を交付し,外部不経済を発生する経済主体に課税することを考えた。市場機構の運行の不効率性を生むこのような外部性は,さらに技術的外部性と名づけられて,金銭的外部性と区別されることがある。…
…〈厚生〉とは人間の幸福もしくは福祉を指すのであるが,とくに経済厚生とは経済的観点からみた厚生を意味する。A.C.ピグーによれば,この経済厚生とは社会を構成する各個人の効用の総和である。しかし,効用の総和を直接に取り扱うことはできないから,彼はそれに対応するものとして国民所得を考えた。…
…厚生経済学的に使われた)が増大するため,両者の調和が可能であると考えたのである。これに対し,マーシャルの後継者A.C.ピグーの《厚生経済学》(1920)は,第1次大戦前後のイギリスの経験に立って理論が展開されている。第1次大戦はイギリスの〈世界の工場〉としての地位を決定的にゆるがせてしまった。…
…規範経済学ともよばれ,所与の価値判断に照らして経済組織の運行機能を評価することを課題とする。経済学のこの分野を初めて体系的に取り扱ったA.C.ピグーの主著《厚生経済学》(1920)の標題に従って,厚生経済学とよばれることが多い。 厚生経済学は,特定の価値判断を提唱ないし主張するものではなく,考察に値すると思われる所与の価値判断の帰結を示すことがその課題である。…
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