ピジン英語ともいう。狭義には,18世紀に中国や東南アジア沿岸地域での通商のため,西欧人と現地人との接触言語として発達した英語と中国語などの混成語(混合語)を指し,ピジンの呼名も,もともと英語businessが中国ふうになまったものであるといわれる。発音上は現地語のなまり(たとえば英語のrをl,語末子音の後に[i]を発音する中国なまりなど)や,統語上主として現地語の型に従う(たとえばtable topside(=on the table),Peking mo(re) Far(=beyond Peking)は中国語〈卓子上〉〈北京以遠〉から)などの特徴がある。
また,上記のものも含めて,世界各地で異言語話者間の意志伝達のために生じる同様の混成語一般を指して,ピジン語あるいはピジン英語(英語が含まれる場合)と呼び,通常,一言語を基底として,簡略化した文法と限られた混成語彙が用いられる。メラネシア,オーストラリア,西アフリカなどに多くみられ,南西太平洋地域に広く行われるビーチ・ラ・マーbeach-la-marもピジン英語の一種である。語彙の不足を限られた語の巧みな結合で補う例は,ビーチ・ラ・マーの一分枝と考えられ,ラバウル,ポート・モレスビー,アドミラルティ諸島などで独自の発達をとげているネオ・メラネシア語Neo-Melanesian(メラネシア・ピジン)のgras bilong hed(=hair)<grass of headなどに見られる。ピジン語の使用者の2世・3世が,これを交易上の言語あるいは一種の国際補助語としてではなく,母語とするにいたれば,それを区別してクレオール語と呼ぶことも行われる。ピジン語やクレオール語は,言語の成立・変化また普遍性(ユニバーサル)を考える上で重要であり,そのような視点から,研究上大きな注目を集めている。
執筆者:大束 百合子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
狭義には18~20世紀中国の沿岸地域で使用されていた、英語と中国語の混合言語をさす。これは、言語を異にする者同士が通商をするときの便宜のために発生したもので、文法が簡略化され、語彙(ごい)もきわめて限られている。ピジンとはビジネスbusinessがなまったものだといわれるが、ほかにも説がある。
今日、一般には、言語接触から生じた混合言語で英語をベースbaseにしたものをすべてさす。ハワイの日系移民の独特な英語もピジンイングリッシュである。すなわち、言語のタイプの名称であって、特定の言語をさすのではない。この種の言語は通商など限られた場面でのみ使用され、母語とする話者はいない。しかし比較的安定した文法をもち、一時的な発話であるブロークンイングリッシュとは区別される。フランス語をベースにしたピジンフランス語pidgin Frenchなど、いろいろな言語のピジンが存在する。
[桜井 隆]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…〈ピジン〉という名称の語源には,英語の〈business(仕事)〉の中国語訛り起源説,ポルトガル語〈ocupação(職業)〉の中国語訛り説,ヘブライ語〈pidjom(交易)〉説,南米ギアナ沿岸の先住民の言語の〈pidian(人間)〉説などがある。現在のところは,〈buisiness〉説が一般的である。 人間の歴史は,民族移動,戦争,交易,移民,探検などによる,異なった文化や言語を持つ人々同士の接触の歴史でもあった。…
…東部メラネシア諸語とポリネシア諸語との密接な関係が報告されているが,メラネシア諸語研究に関しては未解決の問題が多く残されている。一方,メラネシアで広く話されている言葉に混合語のピジン・イングリッシュがある。19世紀にオーストラリアのクイーンズランドの農園の求めに応じて安い労働力を探す奴隷商人(ブラックバーダーblackbirderと呼ばれる)の暗躍が始まり,ソロモン諸島やニューヘブリデス諸島の島民がその犠牲になった。…
※「ピジンイングリッシュ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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