ある個人もしくは集団が人生の最初に習得した言語のこと。しかし,その〈言語〉をどう解するかによって,広い意味での母語と狭い意味での母語を概念的に区別することが可能である。
広い意味での母語とは,たとえば日本人にとっての日本語のようなもので,ある個人が最初に習得した方言をその後なんらかの理由で捨て去るか変質させても,現在話しているものが日本語のいずれかの方言(もしくは,それに近いもの)である限り,彼にとって日本語が母語であるということができる。狭い意味では,最初に習得した方言が母語であり,その後それを捨て去ったり変質させてしまったりすると,母語を(完全に,あるいは部分的に)喪失したというべき状態になる。通常は,広い意味で用いられることが多いが,言語を等質的な記号体系と考える立場からすると,狭い意味で母語をうんぬんするほうがより適当ということになる。なお,上述の〈習得〉とは,十分に習得するということであり,幼年期にある言語(方言)を少し話せるようになってもほとんど忘れてしまい,別の言語を十分に使いこなせるようになったなら,後者のほうを母語と呼ぶべきである。母語は,その話し手たちの意識や論理のあり方にある程度の影響を与えると考えられている。
以上は,話し手の側から見た母語の位置づけであるが,言語の側から見て,それを母語とする集団が存在するか否かという観点も非常に重要である。圧倒的多数の言語は,それを母語とする集団を有するが,その言語がたとえば交易上の共通語として形成されたような場合,その話し手の誰にとってもそれは母語でないということがありうる。そのような言語は,その性格上,人間生活のあらゆる面で,意思伝達の手段として十分に機能するということを必要としないので,言語としてもかなり不完全なものである。しかし,もともと交易上の共通語として出発しても,それを母語とする集団が形成されると,そうした集団はその言語によって日常生活のあらゆる面で意思交換を行わなければならないため,言語自体もその機能を十分果たしうるものに発達させられる。たとえば,東アフリカのスワヒリ語は,初めは交易上の共通語として形成されたが,その後海岸地方その他にそれを母語とする集団が生まれ,それに伴って日常生活の全面にわたって他の言語(部族語)と同等の表現能力を有するものとなり,かつ,少なくともそうした地域においては,人間生活への密着度も部族語と同等のものとなっている。
執筆者:湯川 恭敏
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