非金属無機質固体というセラミックスの母体となる物質のもつ本来の優れた機能を,焼結など形を与えるための手法で損なうことなく生かした材料。汎用セラミックスが陶磁器,セメント,ガラスのように物質的にケイ酸塩に限られ,機能が容器的なものだけであったのに対し,ニューセラミックスでは物質の種類も増え,工具あるいは電子材料など用途も拡大したが,まだ焼結助剤などのために物質本来が示すはずの優れた特性が生かされきっていなかったのを,技術的にもう1段階進展させたのがファインセラミックスである。技術の内容はまず,特性の向上のために高純度原料を用いたことにある。汎用セラミックスからニューセラミックスの段階では,安価な天然原料が主として使われていたため,純度も低かったし,なにより焼結を助けるために添加物を使用していたのを,人工原料として高純度化を行ったのである。ファインセラミックスのなかでもとくに高純度化を果たしているのが,光通信用のシリカSiO2であろう。鉄分とか水分などの不純物はppb(10億分の1)程度も許されない。ところが高純度物質は焼結しにくいのである。
高純度化による特性向上と焼結性の低下の矛盾を解決する技術の一つが,原料粉末の微粉化であった。現在ファインセラミックスと呼ばれる優れたセラミックスでは,原料には一般に1μm以下のもの(サブミクロンと呼ばれる)が使われている。使われる用途には精密性を要求されるものが多いので,製品の寸法精度も汎用セラミックス,ニューセラミックスに対してはるかに高度である。このため成形,焼成,加工などにも高度の技術が駆使される。用途もきわめて広く,これを表に示す。社会的影響も大きい。電磁気光学的機能をもつものは情報通信技術に,熱的・機械的機能をもつものは省エネルギー技術あるいは精密機械技術に,そして耐食性と生体親和性を生かしたものは医学用に使われる。情報,エネルギー,バイオテクノロジーあるいはライフサイエンスという先端技術のすべての分野で,その技術を可能にするための鍵となる新素材として,すでに活躍しているかあるいは活躍が期待される。
なおファインセラミックスという言葉を上記のような意味で使いはじめたのは日本である。和製英語であるが,日本のファインセラミックス技術が進んでいるために現在では世界各国にも共通しはじめている。元来は高級精緻(せいち)な陶磁器のことをさしていた。しかし現代のファインセラミックスにも高級,精緻というニュアンスは継承されているし,ほかにファインケミカル,ファインポリマー,ファインメタルなどファインの形容詞が付くものとの対応もよいので,ファインセラミックスという言葉がしだいに定着しつつあるといえる。とくに通産省のプロジェクトで次世代産業基盤技術育成があり,その中にファインセラミックスのプロジェクトが含まれるようになって以来,いわば公認を受けたというように考えられるようになった。このプロジェクトでは,高温で高純度が期待される炭化ケイ素,窒化ケイ素などで自動車などのエンジン部材を作ることを目的としている。これが成功すると燃費は30%程度向上するといわれる。ファインセラミックスの今後の発展にとって重要なことは,精密加工技術と破壊の原因となる傷の検査技術の確立である。ファインセラミックス自身がハイテクノロジーを求めているのである。
執筆者:柳田 博明
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古典的な窯業製品(セラミックス)と異なり、原料を精製・調合してつくられる緻密(ちみつ)で精細な高性能セラミックスの通称。ニューセラミックスともよばれる。
[編集部]
精製した人造微粉末原料を用い,高度に制御した反応条件下において焼結させて製造した機能性無機材料のこと.陶磁器やガラスなど,天然原料から製造する従来のセラミックス(窯業製品)を改良して発展させた物質である.ケイ酸塩だけでなく,酸化物,炭化物,窒化物,ホウ化物などがある.セラミックスの特質である耐熱性や硬い性質を高めたものだけでなく,電気的,磁気的,光学的,化学的機能など新しい性質をもつ無機材料である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
(徳田昌則 東北大学名誉教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…ここで無機質固体原料とは,物質的にみるとケイ酸塩を主体とする天然原料である鉱物の場合と,高度に精選された人工原料の場合とがある。鉱物質天然原料を用いる窯業製品の代表が陶磁器,ガラス,セメントであり,高純度人工原料から作られるものは電磁気材料,精密機械材料などに使われるファインセラミックスである。〈窯〉の語源は羊を穴に入れて火であぶることであるという。…
※「ファインセラミックス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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