どたばたの卑俗な喜劇、寸劇、笑劇。フランス中世のミステール(聖史劇)に挿入された茶番劇で、ファブリオー(笑話)、ソチ(茶番劇)などと同類のもの。今日伝えられる作品はおよそ150編で、最古のものは13世紀の『小僧と盲人』といわれる。最盛期は15、6世紀で、庶民の機知や風刺を巧みに演じて、民衆娯楽の代表となった。わが国の掛け合い漫才、幕間(まくあい)狂言に通じる。イギリスのミステリー(聖史劇)でも、「ノアの方舟(はこぶね)」の場面で乗船をせきたてるノアを、近所の奥さんたちと別れを惜しむ妻が殴打するファルスが織り込まれた。代表作は1460年ごろの作とされる『パトラン先生』で、登場人物の心理の交錯を巧みにとらえている。T・S・エリオットはマーローの『マルタのユダヤ人』をファルスと考え、この系譜の最後をディケンズに帰している。なかにはマルタン・デュ・ガールの『ルルー爺(じい)さんの遺言』(1914)のように中世のファルスの伝統を守る作品もあるが、多くはイギリスの『パンチとジュディ』の人形劇に代表されるどたばた喜劇をさすようになった。
[船戸英夫]
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…一般には,笑わせることだけを目的とした滑稽な劇と考えられているが,元来は中世フランス世俗劇の一つ。ファルスともいう。語源的にはラテン語ファルキレfarcire〈詰め込む〉に由来するフランス語farce〈挽肉の詰物〉からきており,中世の劇上演の際,主要演目である聖史劇(宗教劇)などの幕間に詰物のごとく挿入された小品を意味するとの説と,各種地方語,隠語,地口,雑多な滑稽味が詰め込まれた小品との説がある。…
…生地の中に,詰めもの,フォアグラ(鶏のレバーで代用できる)とトリュフ数切れずつを交互に入れ,ブリゼ生地か折込みパイ生地のふたをはりつけ,蒸気抜きの切り込みをつけてオーブンで焼く。 パテにはすき間を埋める詰めものファルスfarceが用いられるのが普通で,肉料理にはひき肉とパン,魚料理には魚のすり身とパンの詰めものが使われ,香辛料やトリュフで風味を高める。プチ・パテpetit pâtéは,折込みパイ生地で詰めものを包んで焼いたもの。…
※「ファルス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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