ファーブル(Yan Fabre)(読み)ふぁーぶる(英語表記)Yan Fabre

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ファーブル(Yan Fabre)
ふぁーぶる
Yan Fabre
(1958― )

ベルギーの美術家。アントウェルペン生まれ。『昆虫記』の著者ジャン・アンリファーブルは彼の曽祖父に当たる。1970年代後半、アントウェルペンの王立芸術アカデミー、王立美術工芸学院でビジュアル・アートを学び、その後も同市を拠点に活躍する。1978年同市のヨルダエンシュイ・ギャラリーで初個展を開催したのを機に美術家として本格的な活動を開始。デウェー・アート・ギャラリー(東フランドル州オテルヘム)、ロニー・ファン・デ・フェルデ・ギャラリー(アントウェルペン)、ジャック・ティルトン・ギャラリー(ニューヨーク)などで多くの個展を開催する。初期のころよりベルギー現代美術の旗手として注目され、代表的作家の一人と目された。

 ファーブルが初期のころより一貫してつくり続け、またすべての作品のベースとなっているのが青いボールペンを用いたドローイングである。そのドローイングは小さな紙片から室内の壁全体や城を覆う規模まで多様である。モチーフとしては動物、とりわけ昆虫を好み、青い画面の上に描かれたそれらの生物は独特な表現となっている。夜行性の昆虫から得たこれらのドローイングをファーブルは「青の時間」と呼び、「深い沈黙の短い時間、嵐の前の凪(なぎ)の時間であった、夜の生物が眠りについてから昼の生物がよみがえるまでの間である。この沈黙こそ私の表現したいものだ」とその目的と性格を述べている。また舞台演出も手がけるファーブルはドローイング作品と同じモチーフを演劇オペラでも展開する。92年のドクメンタでは、ドローイング作品とオペラの両方が披露されたほか、大作『昇り行く天使たちの壁』(1993)はダンテの『神曲』をモチーフに選び、新たな展開を示した。

 2000年にはワルシャワ博物館、ロンドン自然史博物館で個展が開催されるなど、21世紀を迎えてもその活動は精力的である。日本には92年(平成4)の「アナザーワールド――異世界への旅」展(水戸芸術館)で紹介されたのを皮切りに、94年には横浜ポートサイドギャラリーで、2001年には丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で個展が開催された。

[暮沢剛巳]

『「ヤン・ファーブル」(カタログ。2000・丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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