ミストラル(その他表記)Frédéric Mistral

デジタル大辞泉 「ミストラル」の意味・読み・例文・類語

ミストラル(Gabriela Mistral)

[1889~1957]チリの女流詩人・外交官。自殺した恋人への愛を、詩作の過程で人類愛にまで昇華。1945年ノーベル文学賞受賞。詩集「荒廃」「愛情」「開墾」など。

ミストラル(Frédéric Mistral)

[1830~1914]フランスの詩人。生地プロバンス地方の言語と文学の復興・刷新に貢献。1904年ノーベル文学賞受賞。叙事詩ミレイユ」、近代プロバンス語辞典「フェリブリージュ宝典」など。

ミストラル(〈フランス〉mistral)

フランスのローヌ川沿いに地中海に向かって吹き下ろす、冷たく乾燥した強い北風。冬から春にかけて生じる。

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精選版 日本国語大辞典 「ミストラル」の意味・読み・例文・類語

ミストラル

  1. [ 一 ] ( Gabriela Mistral ガブリエラ━ ) チリの女性詩人。農民の生活、愛と苦痛を素朴に表現した。作品は詩集「荒廃」「破壊」など。一九四五年ノーベル文学賞受賞。(一八八九‐一九五七
  2. [ 二 ] ( Frédéric Mistral フレデリック━ ) フランスの詩人。プロバンス地方の言語・文学の再興を目ざす運動を行ない、また、民間伝説に取材した牧歌的な詩を書いた。代表作「ミレイユ」。ほかに近代プロバンス百科事典フェリブリージュ宝典」など。一九〇四年ノーベル文学賞受賞。(一八三〇‐一九一四

ミストラル

  1. 〘 名詞 〙 ( [フランス語] mistral ) フランス南部のローヌ川から地中海岸に吹く乾燥した冷たい北風。
    1. [初出の実例]「この風を土地の人はミストラルと言う」(出典:炎の人(1951)〈三好十郎〉四)

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改訂新版 世界大百科事典 「ミストラル」の意味・わかりやすい解説

ミストラル
Frédéric Mistral
生没年:1830-1914

近代プロバンス語の大詩人。ルーマニーユオーバネルらと1854年南仏における文学復興運動〈フェリブリージュ〉を結成した。この運動は久しく俚語と化していた南仏語を刷新して,中世期に栄えた南仏文学を復興し,あわせて南仏の民族意識の顕揚を目標とした。ミストラルの生涯は〈フェリブリージュ〉精神の発揚に沿って展開して行ったと見られる。55年機関誌《プロバンス年鑑》を刊行して,活発な運動を始めた。ちなみに上田敏の訳詩集《海潮音》にある,オーバネル作と銘打たれた名訳〈小鳥でさへも巣は恋し……〉は,上記の《年鑑》の冒頭に掲げられたミストラルの長詩の一部とみられる。ミストラルは59年悲恋の大叙事詩《ミレイユ》を公にした。南仏の美しい自然を背景に多くの伝説を盛り込んだ,この牧歌的な詩は,ラマルティーヌの絶賛を博し,グノーによってオペラとして紹介され,一躍ミストラルの名声を高からしめた。その後ミストラルは南仏の民族意識の顕揚を意図した叙事詩《カランダル》(1867),抒情詩《ローヌ川詩編》(1897)など多くの大作を刊行した。ミストラルの名を不朽なものにした作品には,《ミレイユ》のほかに,文学的香りの高い青年時代の回想録思い出の記》(1906)と,30有余年を費やして完成した言語・風俗大辞典《フェリブリージュ宝典》(1878-86)などがある。1904年にはノーベル文学賞が贈られた。
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ミストラル
Gabriela Mistral
生没年:1889-1957

チリの女流詩人,外交官。ラテン・アメリカで最初にノーベル文学賞(1945)を受賞した。本名はルシラ・ゴドイ・アルカヤガ。若いときから教職に携わり,1922年に処女詩集《悲嘆》を発表したが,この作品は彼女の最高傑作にあげられている。恋人の自殺によって精神的打撃を受けた傷心の詩であり,愛と悲しみがテーマになっている。だが第2の作品《破壊》(1938)では精神的苦悩が宗教による魂の救済へと昇華され,第3のそして最後の詩集《ぶどう桶》(1954)の中では自然と人間に対する普遍的な愛がうたわれ,成熟した女流詩人としてのやさしい心情が吐露されている。外交官としては,33年から没年まで,ヨーロッパや南アメリカ各地の領事を務めた。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミストラル」の意味・わかりやすい解説

ミストラル(Frédéric Mistral)
みすとらる
Frédéric Mistral
(1830―1914)

フランスの詩人。南仏プロバンス地方のマイヤーヌの生まれ。中世吟遊詩人(トルーバドゥール)の輝かしい伝統をもつプロバンスの言語と文学の再興を目標に、同士のルーマニーユJoseph Roumanille(1818―1891)やオーバネルThéodore Aubanel(1829―1886)たちと「フェリブリージュ」Félibrigeを結成(1854)。郷土の美しい自然を背景とする悲恋の叙事詩『ミレイユ』Miréio(1859)は、彼の名を一躍有名にした。叙事詩『カランダル』Calendau(1867)、『ネルト』Nerto(1884)、『ジャンヌ王妃』La Reino Jano(1890)などは、フランスの中央集権に抵抗して南フランスの独立を念願する詩人の理想が秘められている。『わが生涯、回想と物語』Mémoires(1906。邦訳名『青春の思い出』)は、フェリブリージュ創設期の文学的風土ばかりでなく、七月革命、二月革命当時のプロバンスの世相を知るうえにも興味深い。『フェリブリージュ宝典』Lou Trésor dou félibrige(1878~1886)はプロバンス語の刷新と高揚のために心血を注いで完成した百科事典。1904年、スペインのJ・エチェガライとともにノーベル文学賞を受賞した。

[杉冨士雄]

『杉冨士雄訳『ミレイユ』(『ノーベル文学賞全集23』所収・1971・主婦の友社)』『杉冨士雄訳『プロヴァンスの少女 ミレイユ』(岩波文庫)』『杉冨士雄訳・著『ミストラル「青春の思い出」とその研究』(1984・福武書店)』


ミストラル(Gabriela Mistral)
みすとらる
Gabriela Mistral
(1889―1957)

チリの女性詩人、外交官。本名はLucila Godoy Alcayaga。筆名はイタリアの作家ガブリエーレ・ダンヌンツィオとフランスの詩人フレデリック・ミストラルによる。16歳から辺境で教鞭(きょうべん)をとり、1923年にはチリ大学教授となる。三つの『死のソネット』(1914)で国民詩歌賞を受けて認められる。第一詩集『荒廃』(1922)は、婚約者の自殺に起因する内的葛藤(かっとう)のドラマであるが、そこにみられる愛、絶望、空虚感はしだいに昇華され、満たしえなかった母性を通じて、子供、弱者、さらには人類に対する愛へと深まる。この点で、官能的愛を歌う新ロマン主義にとどまる同時代の女性詩人を超えた。ほかに『愛情』(1924)、『破壊』(1938)などがある。30年以降コロンビア大学などで文学を講じたのち、マドリードリスボンニースロサンゼルスなどの領事を歴任し、45年、中南米で初のノーベル文学賞を受賞した。

[野谷文昭]

『荒井正道他訳『ミストラル他』(『ノーベル賞文学全集 24』所収・1971・主婦の友社)』


ミストラル(風)
みすとらる
mistral

フランスのローヌ川沿いに、リヨン湾まで吹き込んでいく北寄りの強風。下降流と、狭い谷間に吹き寄せられること(噴流効果という)によって強くなり、スコール性、寒冷、乾燥した風である。ローヌ川のデルタ地帯のプロバンス地方からの北西風と、デュランスの谷からの北東風が合流する付近でもっとも強くなる。一般にミストラルは低気圧がティレニア海もしくはジェノバ湾にあり、高気圧がアゾレスから中部フランスに進んでくるときに吹く。ミストラルは吹き始めると途中でひと休みしながら数日間勢力を保つときがあり、マルセイユでは年間におよそ100日この風が吹く。

[根本順吉]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ミストラル」の意味・わかりやすい解説

ミストラル
Mistral, Frédéric

[生]1830.9.8. マイヤーヌ
[没]1914.3.25. マイヤーヌ
フランスの詩人。エクス大学で法律を学ぶ。二月革命後の中央集権的傾向に対しプロバンス地方の言語,文化を擁護するため,1854年,J.ルマニーユ,T.オーバネルらと「フェリブリージュ」を結成,生涯をこの運動に捧げた。オック語による叙事詩『ミレイオ』 Mirèioは 59年パリで出版された。ほかに叙事詩『カレンダウ』 Calendau (1867) ,詩集『金の島々』 Lis Isclos d'or (75) ,オック語の辞典『フェリブリージュ宝典』 Lou tresor dóu Félibrige (2巻,78) など。 1904年ノーベル文学賞受賞。

ミストラル
Mistral, Gabriela

[生]1889.4.7. ビクーニャ
[没]1957.1.10. ニューヨーク,ヘムステッド
チリの女流詩人。本名 Lucila Godoy Alcayaga。教師の娘として生れ,彼女自身も多年教育に献身した。初期の作品は,婚約者の自殺によって挫折した愛の苦悩と不毛の母性に対する絶望に貫かれているが,後期の詩ではそれらは昇華されて,汎神論的な無限の愛へと変化している。代表的な詩集に『荒廃』 Desolación (1922) ,『愛情』 Ternura (24) ,『開墾』 Tala (38) 。国際連盟をはじめ海外での外交官生活も長い。 1945年ノーベル文学賞受賞。

ミストラル
mistral

フランスのローヌ川河谷を地中海に向かって吹き抜ける局地風。山の斜面を吹きおろす強い北風で,ボラの一種であるが,細長い谷間を吹き抜けるため気流が収束し,さらに強風となる。冬から春にかけて吹き,ローヌ川下流域では風速 30~40m/sに達するうえ,非常に冷たく,農作物に多大な被害を与えることがある。

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百科事典マイペディア 「ミストラル」の意味・わかりやすい解説

ミストラル

チリの女性詩人。本名ルシーラ・ゴドイ・アルカヤガ。若き日の恋人の自殺という個人的経験に根ざした,《荒廃》(1922年)をはじめとする初期の詩集では,愛と絶望の深さが,素朴ではあるが近代主義的洗練さをもって歌われている。後にこの愛は,神,自然といったより普遍的なものへと向かい,無限の慈愛へと純化していくが,この愛の昇華の過程は後期代表作《愛情》(1924年),《開墾》(1938年)の中に認められる。1945年ノーベル文学賞を受賞。

ミストラル

フランスの詩人。1854年オーバネルらと文学団体〈フェリブリージュ〉を結成,プロバンス語とその文学の維持・発展に努め,また中央集権に抵抗,連邦主義を提唱した。叙事詩《ミレイユ》(1859年),抒情詩《黄金島》のほか,言語・風俗大辞典《フェリブリージュ宝典》の労作がある。1904年ノーベル文学賞。

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デジタル大辞泉プラス 「ミストラル」の解説

ミストラル

日産自動車が1993年から2006年まで製造、販売していた乗用車。3、5ドアのSUV。スペインに本拠を置く同社の子会社が生産し、日本で販売された。

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世界大百科事典(旧版)内のミストラルの言及

【風】より

…この場合,滑降の途中で断熱昇温しても,もともと寒冷な空気なのでさほど気温も上がらず冷たい風である。 ミストラルmistralフランスのローヌ川峡谷を通り,地中海の北西沿岸,とくにリオン湾に吹き降ろしてくる北寄りの強風。冬から春に多く,冷たくて乾燥した風で,性質はアドリア海のボラに似ているが,ボラよりはいくぶん穏やかである。…

【地中海】より

…一般に冬の地中海の気候は,地域的に多様であり,また年による変化が大きい。地中海に流出する冷たい空気は,地形的影響もあって,ミストラル,ボラなどの局地風となる。またイタリアのアドリア海沿岸部は,ボラによって,かなりの積雪がもたらされることになる。…

【フランス】より

…冬は一般に温暖であるが,西からやってくる低気圧が地中海上で発達すると,内陸の高気圧からローヌ河谷に向かって寒い北風が吹き込む。これが,ゴッホの絵にみられるように防風林をも風下に傾ける強い地方風のミストラルmistralである。 第2は冬季,内陸の高気圧に支配される大陸性気候(冷帯湿潤気候)で,冬は寒く乾燥して晴天が多い。…

【プロバンス】より

…地中海式気候の冬雨地帯で,年降雨量は約600mmにすぎないが,ときに集中的な豪雨によって,河川の氾濫を招く。また,冬季にミストラルとよぶ北方からの冷たい強風が吹き,低温や降雪がみられ,風景が一変することがある。地中海的植生におおわれ,ことに,イトスギ,マツ(アレッポマツ),コルクガシなどの樹木,オリーブほかの果樹,ミモザ,ラベンダー,アカネなどの野草,栽培植物が,プロバンス独特の景観を生み出している。…

【チリ】より

…同じ年齢の生徒が小学校4年まで進学する比率は,1980年の男子78%,女子81%から90年には男女とも95%に上昇している。 芸術・文化活動も盛んで,詩人のガブリエラ・ミストラルとパブロ・ネルーダが1945年と71年にそれぞれノーベル文学賞を受賞している。《夜のみだらな鳥》で知られるシュルレアリスムの小説家ドノソJosé Donoso(1924‐96),ピアノ奏者のアラウClaudio Arrau(1903‐91)も,世界にその名を知られている。…

※「ミストラル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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