ミストラル(読み)みすとらる(英語表記)Frédéric Mistral

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミストラル」の意味・わかりやすい解説

ミストラル(Frédéric Mistral)
みすとらる
Frédéric Mistral
(1830―1914)

フランス詩人。南仏プロバンス地方のマイヤーヌの生まれ。中世吟遊詩人(トルーバドゥール)の輝かしい伝統をもつプロバンスの言語と文学の再興を目標に、同士のルーマニーユJoseph Roumanille(1818―1891)やオーバネルThéodore Aubanel(1829―1886)たちと「フェリブリージュ」Félibrigeを結成(1854)。郷土の美しい自然を背景とする悲恋の叙事詩ミレイユMiréio(1859)は、彼の名を一躍有名にした。叙事詩『カランダル』Calendau(1867)、『ネルト』Nerto(1884)、『ジャンヌ王妃』La Reino Jano(1890)などは、フランスの中央集権に抵抗して南フランスの独立を念願する詩人の理想が秘められている。『わが生涯、回想と物語』Mémoires(1906。邦訳名『青春思い出』)は、フェリブリージュ創設期の文学的風土ばかりでなく、七月革命、二月革命当時のプロバンスの世相を知るうえにも興味深い。『フェリブリージュ宝典Lou Trésor dou félibrige(1878~1886)はプロバンス語の刷新と高揚のために心血を注いで完成した百科事典。1904年、スペインのJ・エチェガライとともにノーベル文学賞を受賞した。

[杉冨士雄]

『杉冨士雄訳『ミレイユ』(『ノーベル文学賞全集23』所収・1971・主婦の友社)』『杉冨士雄訳『プロヴァンスの少女 ミレイユ』(岩波文庫)』『杉冨士雄訳・著『ミストラル「青春の思い出」とその研究』(1984・福武書店)』


ミストラル(Gabriela Mistral)
みすとらる
Gabriela Mistral
(1889―1957)

チリの女性詩人、外交官。本名はLucila Godoy Alcayaga。筆名はイタリアの作家ガブリエーレ・ダンヌンツィオとフランスの詩人フレデリック・ミストラルによる。16歳から辺境教鞭(きょうべん)をとり、1923年にはチリ大学教授となる。三つの『死のソネット』(1914)で国民詩歌賞を受けて認められる。第一詩集荒廃』(1922)は、婚約者の自殺に起因する内的葛藤(かっとう)のドラマであるが、そこにみられる愛、絶望、空虚感はしだいに昇華され、満たしえなかった母性を通じて、子供、弱者、さらには人類に対する愛へと深まる。この点で、官能的愛を歌う新ロマン主義にとどまる同時代の女性詩人を超えた。ほかに『愛情』(1924)、『破壊』(1938)などがある。30年以降コロンビア大学などで文学を講じたのち、マドリードリスボンニースロサンゼルスなどの領事を歴任し、45年、中南米で初のノーベル文学賞を受賞した。

[野谷文昭]

『荒井正道他訳『ミストラル他』(『ノーベル賞文学全集 24』所収・1971・主婦の友社)』


ミストラル(風)
みすとらる
mistral

フランスのローヌ川沿いに、リヨン湾まで吹き込んでいく北寄りの強風。下降流と、狭い谷間に吹き寄せられること(噴流効果という)によって強くなり、スコール性、寒冷、乾燥した風である。ローヌ川のデルタ地帯のプロバンス地方からの北西風と、デュランスの谷からの北東風が合流する付近でもっとも強くなる。一般にミストラルは低気圧がティレニア海もしくはジェノバ湾にあり、高気圧がアゾレスから中部フランスに進んでくるときに吹く。ミストラルは吹き始めると途中でひと休みしながら数日間勢力を保つときがあり、マルセイユでは年間におよそ100日この風が吹く。

[根本順吉]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ミストラル」の意味・わかりやすい解説

ミストラル
Mistral, Frédéric

[生]1830.9.8. マイヤーヌ
[没]1914.3.25. マイヤーヌ
フランスの詩人。エクス大学で法律を学ぶ。二月革命後の中央集権的傾向に対しプロバンス地方の言語,文化を擁護するため,1854年,J.ルマニーユ,T.オーバネルらと「フェリブリージュ」を結成,生涯をこの運動に捧げた。オック語による叙事詩『ミレイオ』 Mirèioは 59年パリで出版された。ほかに叙事詩『カレンダウ』 Calendau (1867) ,詩集『金の島々』 Lis Isclos d'or (75) ,オック語の辞典『フェリブリージュ宝典』 Lou tresor dóu Félibrige (2巻,78) など。 1904年ノーベル文学賞受賞。

ミストラル
Mistral, Gabriela

[生]1889.4.7. ビクーニャ
[没]1957.1.10. ニューヨーク,ヘムステッド
チリの女流詩人。本名 Lucila Godoy Alcayaga。教師の娘として生れ,彼女自身も多年教育に献身した。初期の作品は,婚約者の自殺によって挫折した愛の苦悩と不毛の母性に対する絶望に貫かれているが,後期の詩ではそれらは昇華されて,汎神論的な無限の愛へと変化している。代表的な詩集に『荒廃』 Desolación (1922) ,『愛情』 Ternura (24) ,『開墾』 Tala (38) 。国際連盟をはじめ海外での外交官生活も長い。 1945年ノーベル文学賞受賞。

ミストラル
mistral

フランスのローヌ川河谷を地中海に向かって吹き抜ける局地風。山の斜面を吹きおろす強い北風で,ボラの一種であるが,細長い谷間を吹き抜けるため気流が収束し,さらに強風となる。冬から春にかけて吹き,ローヌ川下流域では風速 30~40m/sに達するうえ,非常に冷たく,農作物に多大な被害を与えることがある。

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