フィロン(その他表記)Philōn

デジタル大辞泉 「フィロン」の意味・読み・例文・類語

フィロン(Philōn)

[前20ころ~50ころ]アレクサンドリアユダヤ哲学者。ユダヤ思想とギリシャ哲学との融合を図った。アレクサンドリアのフィロン。

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精選版 日本国語大辞典 「フィロン」の意味・読み・例文・類語

フィロン

  1. ( Philōn )
  2. [ 一 ] 古代ギリシアの哲学者。ラリッサの出身でラリッサのフィロンと称される。キケロの師。第四アカデメイアの学頭。懐疑論的立場から、諸説の総合折衷を図った。(前一六〇頃‐前八〇頃
  3. [ 二 ] 古代アレクサンドリアのユダヤ人哲学者。ユダヤ思想とギリシア哲学プラトン哲学およびストア派)との融合を図り、キリスト教神学に大きな影響を与えた。アレクサンドリアのフィロン、フィロ=ユダエウスと称される。

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改訂新版 世界大百科事典 「フィロン」の意味・わかりやすい解説

フィロン(アレクサンドリアの)
Philōn
生没年:前25か20-後45か50

ユダヤ的伝統とギリシア的教養を身につけた著名な哲学者。一般にフィロ・ユダエウスPhilo Judaeusの通称で知られる。アレクサンドリアの裕福なユダヤ人の家庭に生まれた。当時のアレクサンドリアはプトレマイオス王家の支配のもとに栄えたギリシア的文化都市であったが,多数のユダヤ人が居住し(この時代のエジプト全体のユダヤ人の人口は100万をくだらなかったという),彼らに特別の自治権が認められていた。これら離散(ディアスポラ)のユダヤ人にとって最も切実な問題は,彼らの父祖の教えである旧約聖書とその文化的背景であるギリシア思想との調和を,いかにしてはかり,かつユダヤ思想の優位性をいかに弁証するかということであった。この試みは聖書のギリシア語訳《七十人訳聖書》を初めとして,すでに二,三の先駆者によって進められてきたが,とくにこの問題と本格的に対決した最初のユダヤ人哲学者がフィロンであった。彼の著作は主として〈モーセ五書〉の注解,および釈義であるが,ストア哲学から学んだ〈比喩的方法〉を用いて,聖書の外面的な字義の背後に隠されている真の内面的意味を探求し,その普遍的な真理性の解明を試みている。彼の聖書解釈にはユダヤ思想,ギリシア思想(とくにプラトンとストア),また密儀的神秘思想など多くの要素が混在しているが,その根本的意図は聖書に示されている神の世界創造の問題をいかに合理的に説明するかという点にあった。ここにフィロン哲学を最も特色づける神と世界の媒介者としての〈ロゴス〉の思想が導入されるが,それは一方世界の範型として神によって思惟された〈英知的世界〉を指示するとともに,他方世界に内在し,それを摂理によって導く〈神の力〉を意味する。彼の〈ロゴス論〉は初代キリスト教神学の〈ロゴス・キリスト論〉の形成に重大な影響を与えた。
ユダヤ哲学
執筆者:


フィロン(ラリッサの)
Philōn
生没年:前160か159-前80ころ

古代ギリシアの哲学者。北ギリシア,テッサリア地方の市ラリッサLarissaに生まれる。故郷でカルネアデスの徒カリクレスに学んだのち,アテナイに遊学してクレイトマコスの弟子となり,彼のあとを継いで前110または109年にアカデメイアの学頭となる。第1次ミトリダテス戦争中の前88年に戦乱をさけてアテナイからローマに逃れ,この地で哲学さらに修辞学を教えた。彼の弟子に詩人カトゥルス父子らがいるが,とりわけ有名なのはキケロである。彼は,アルケシラオスが創始しカルネアデスらの継いだアカデメイアの懐疑論的立場により,ストア派の真理説に反対して〈アカタレフュシア〉(確実な知の把握不可能)という懐疑原理を主張した。しかし彼は,ある事物は,確実にではないが,ある程度把握可能であると述べた点でストア派の認識論に近い面をもつ。著書は現存しないがキケロの書物に彼の教説のいくつかが伝えられている。
執筆者:


フィロン(ビザンティンの)
Philōn

ヘレニズム期に活躍したギリシアの機械学者。生没年は不詳だが,発明されたばかりのクテシビオスの青銅製投石器について述べているところから,活躍期は前250年前後と思われる。軍事技術と機械装置の分野で,投射機や気圧を利用した温度検知器などの発明を残したが,その生涯については不明。彼の現存する唯一の著作《機械学体系》は〈序文〉〈てこ〉〈港湾の建造〉〈投石器〉〈気体学〉〈機械劇場〉〈築城術〉〈攻城と防衛〉〈戦略〉の9巻からなるが,そのうち〈投石器〉〈気体学〉〈築城術〉の巻だけが残っている。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「フィロン」の意味・わかりやすい解説

フィロン(古代ギリシアの哲学者)
ふぃろん
Philon ho Larissaios
(前160/159―前80ころ)

ラリサ出身の古代ギリシアの懐疑派の哲学者。クレイトマコスKleitomachos(前187/186―前110/109)に学び、その後を継承してキケロなど多くの弟子を集めて、約21年間新アカデメイアを指導した。真理が実在することを確信することでカルネアデスから離れ、カルネアデスの新(第三)アカデメイアに対して、第四アカデメイアといわれることがある。またカルネアデスの「もっともらしく信じられること」に対して「明瞭(めいりょう)さ」を提出した。フィロンは、アルケシラオスやカルネアデスも含んでアカデメイアはプラトンの伝統から外れていないと考えたが、あくまで真理の人間による把握不可能性を強調することで、弟子のアンティオコスの第五アカデメイアと区別される。フィロン以降アカデメイアは衰退の途をたどった。

[山本 巍 2015年1月20日]


フィロン(ユダヤ人哲学者)
ふぃろん
Philon
(前20ころ―後50ころ)

ユダヤ人哲学者。彼の家庭はローマ皇帝と親交があり、ユダヤ王家と姻戚(いんせき)関係にあった。紀元後38年のアレクサンドリアのユダヤ人大迫害ののち、彼はユダヤ人の政治的権利を弁護するために、使節団長としてローマのカリグラ帝のもとに派遣された。著作の大部分はモーセ五書の注解であり、寓意(ぐうい)的方法を用いて文字の背後にある哲学的意味を探ろうとした。プラトンのイデア論、ストア哲学のロゴス論の多大な影響を受けたが、彼の思想の基本はユダヤ教信仰である。人間の至福は魂が神をみることにあるが、神の一方的な恵みだけがそれを可能にすると説いた。彼のロゴス(神と世界との媒介者)の思想はキリスト教教父に大きな影響を与えた。

[梅本直人 2018年4月18日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フィロン」の意味・わかりやすい解説

フィロン[アレクサンドリア]
Philōn of Alexandria

[生]前15頃.アレクサンドリア
[没]後45頃.アレクサンドリア
ユダヤ哲学者。ユダヤのフィロン Philon Judaeusともいう。ヘレニズム時代のユダヤ哲学の代表的存在。最初の神学者と称される。富裕の名門に生まれ,カリグラ帝の頃のローマを訪れ,ユダヤ人の皇帝礼拝義務免除請願のため帝に謁見したほかは,生地で過ごした。彼の方法はいわゆる折衷主義的で,プラトンやストア派などのギリシア哲学の教養を基礎として旧約聖書の寓意的解釈を行なうものであり,ユダヤ神学とキリスト教,宗教と哲学,信仰と理性の一つの典型的な結合が彼によって果たされ,のちの新プラトン主義への道を開いた。主著『問題と解決』 Zētēmata kai luseis,『神聖なる律法の寓意的解釈』 Nomōn hierōn allēgoriai。

フィロン[ラリッサ]
Philōn of Larissa

[生]前160頃.テッサリア,ラリッサ
[没]前80頃.ローマ
ギリシアの哲学者。ラリッサでカルネアデスの弟子カリクレスに学んだのち,アテネに出てクレイトマコスに師事,師のあとをうけてアカデメイアの学頭となった。ミトラダテス戦争のためローマヘ逃れ,修辞学の教師となってカツルス父子やキケロを教えた。アルケシラオスやカルネアデスの懐疑論を継承,ストア派のファンタシア・カタレプティケに対して,倫理上の問題については蓋然性の規準を認めつつも,認識の問題においては「確実なる知識の不可能性」の原理を主張し,弟子のアスカロンのアンチオコスに批判された。

フィロン[アテネ]
Philōn of Athens

前3世紀頃在世の古代ギリシアの哲学者。ピュロンの弟子。古懐疑派に属し,ホメロスを好み,『イリアス』のなかの人生の無常を歌った部分を,常に繰返していたと伝えられる。彼は人生の終局目的をアタラクシア (心の平静) に見出していた。

フィロン[ユダヤ]

「フィロン[アレクサンドリア]」のページをご覧ください。

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百科事典マイペディア 「フィロン」の意味・わかりやすい解説

フィロン

古代のユダヤ人哲学者。アレクサンドリアの人。プラトンやストア学派を援用しつつ多くの旧約聖書注解をなして比喩的解釈の方法を示すとともに,神と世界の媒介者としての〈ロゴス〉概念を導入して,オリゲネスらのキリスト教神学者に影響を与えた。聖書研究の予備学としてギリシア哲学を位置づけたことも,後世の学問観にとって重要。主著《宇宙の創造について》《律法の比喩的解釈》。

フィロン

古代ギリシアの哲学者。テッサリアのラリッサの人。カトゥルス,キケロの師。カルネデアスらのアカデメイア学派哲学とストア主義を折衷した独自の懐疑原理を立てたことで知られる。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「フィロン」の解説

フィロン
Philon

前20?~後50?

アレクサンドリアのユダヤ人哲学者。ユダヤ思想をギリシア哲学によって説明,ストア学派哲学のロゴスを絶対的超越者たる神と,被造物たる世界を媒介するものとし,キリスト教神学に影響を与えた。

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世界大百科事典(旧版)内のフィロンの言及

【倉庫】より

…古代ギリシアでは,オリュンピアやデルフォイのような著名な神域に,各都市国家が寄進した宝庫があるが,これらは通例小型の神殿形式をとっていた。また建築家フィロンPhilōn(?‐前310)がペイライエウスPeiraieusに造った武器庫(前4世紀)は,間口16.5m,長さ120mに及ぶ石造の大建造物で,内部は3廊に分かたれ左右の廊は二階建てとし,アテナイ海軍の船具類を収蔵していた。古代ローマでは,ローマ市やオスティアにホレウムhorreumと呼ばれる大規模な倉庫建築があり,列柱廊のある中庭を囲んで,幅が狭く奥行きの深い多数の室が並べられていた。…

【アレクサンドリア】より

…ユダヤ人が多く住んだことが一つの原因である。前3世紀に《七十人訳聖書》が当地で成ったが,後1世紀にはユダヤ人哲学者フィロンが出て旧約聖書をプラトン哲学で解釈する道を開いた。彼は愛国的なアレクサンドリア市民としてローマに使いし,ユダヤ教の立場から皇帝崇拝免除を直訴したこともある。…

【ユダヤ哲学】より

…彼らが最初に接した外来思想はギリシア思想であるが,その影響はすでに《伝道の書》を初めとして,アレクサンドリアの一部の文献(旧約外典,および偽典)に現れている。ユダヤ思想とギリシア思想との調和の問題を本格的に取り上げた最初の哲学者がフィロンである。他方パレスティナやバビロンの正統派のユダヤ教においては,以上のような外来思想の影響から離れ,それ自体の内部で,いかにして〈モーセ律法〉を彼らの現実的な日常生活に適用するかという問題が,前2世紀から5世紀にかけて,律法学者や教師によって論議されてきた。…

※「フィロン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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