フォトジェニー(その他表記)photogénie[フランス]

デジタル大辞泉 「フォトジェニー」の意味・読み・例文・類語

フォトジェニー(〈フランス〉photogénie)

映画特質を表す語。レンズを通すことで、対象本質がつかまれ、さらけ出されるということ。1920年代のフランスで用いられ、現代に至るまで多く映画人影響を受けた。

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改訂新版 世界大百科事典 「フォトジェニー」の意味・わかりやすい解説

フォトジェニー
photogénie[フランス]

写真うつりがいいことを意味するフランス語で,〈フォトジェニックphotogénique(写真うつりがいい)〉という形容詞も一般的に使われるが,映画用語としてはカメラうつりがいい俳優(とくに女優)の美しさを意味するとともに,サイレント時代の映画美学としての映面史的な意味をもつ。

 かつて世界の市場を支配したフランス映画が,第1次世界大戦を機にハリウッド映画に圧倒されていた当時,フランスのもっとも先駆的な映画人の1人であったルイ・デリュックLouis Delluc(1890-1924)は,映画の本質を〈フォトジェニー〉ということばであらわし,《フォトジェニー》(1920)と題する著書も出した。〈フォトジェニー〉は定義しがたい〈魔法のことば〉といわれたが,デリュックを師と仰いだ監督・理論家のジャン・エプスタンは,《エトナ山上の映画論》(1926)のなかで,〈絵画にとっての色彩,あるいは彫刻にとってのボリューム,すなわちその芸術の固有の要素〉とフォトジェニーを定義し,また映画批評家・理論家レオン・ムーシナックLéon Moussinac(1890-1964)は,フォトジェニーの本質を〈視覚的リズム〉と定義した。デリュックの脚本によるジェルメーヌ・デュラック監督の《スペインの祭》(1919),デリュック脚本・監督の《狂熱》(1921),アベル・ガンス監督の《鉄路の白薔薇》(1923)などがフォトジェニーの美学を実現した代表的な作品に数えられる。フォトジェニーはソビエトの〈モンタージュ〉理論とともにサイレント時代の古典的な映画理論である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「フォトジェニー」の意味・わかりやすい解説

フォトジェニー
ふぉとじぇにー
photogénie フランス語

映画用語。映像の特質を表すことばとして、1920年代のフランスで使われた。カメラのレンズを通すことによって、対象の本質がつかみ出されるという考え方で、同時代のロシアのモンタージュ論が複数の画面の結合の仕方を重視したのに比べ、画面そのものの特質を重視した。語源的には、写真誕生時の造語「フォトジェニック」photogénique(ギリシア語から「光がつくりだすもの」の意)に由来しており、これは写真うつりがよいという意味で、英語化もされて今日でも一般的に使われている。1920年に映画批評家・監督のルイ・デリュックが著書『フォトジェニー』のなかで独自の定義を与え、その後ジャン・エプスティンをはじめ多くの映画人に影響を及ぼし、今日に至るまで映像の特質を説明することばとして受け継がれてきている。

[岩本憲児]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フォトジェニー」の意味・わかりやすい解説

フォトジェニー
photogénie

映画用語。「光」の意の photoと,「精霊」の意の génieが結びついた映画の表現概念。本来は写真的表現効果をさす写真用語。フランスの映画理論家リッチョット・カニュードが,映画は劇的な真実よりフォトジェニーな真実を目指すべきだと主張したことに始まり,次いでフランスのルイ・デリュックが,映画を光と精霊の神秘的な一致,光と影のシンフォニーであると考えた。またフランスのジャン・エプスタンが,映像を事物がレンズによって新たな生命を与えられたものとして,一つのアニミズム現象としてとらえたり,レオン・ムシナックがフォトジェニーを視覚的なリズムとみなしたりして,1920年代に盛んに論議がなされた。作品面ではフランスの無声映画末期の傾向をフォトジェニー派と呼び,またその目指すところを「映画詩」と想定したところに特徴がある。

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世界大百科事典(旧版)内のフォトジェニーの言及

【エプスタン】より

…ポーランド生れのフランスの映画監督,理論家。ルイ・デリュック(1890‐1924)の影響を受けて,〈フォトジェニー〉理論を展開した《映画よ今日は》(1921),《エトナ山上の映画論》(1926)などを発表する。アバンギャルドの監督としても活躍し,エドガー・アラン・ポーの怪奇小説を幻想的な映像表現で描いた《アッシャー家の末裔》(1928)が代表作。…

※「フォトジェニー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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