改訂新版 世界大百科事典 「フッ化水素酸」の意味・わかりやすい解説
フッ(弗)化水素酸 (ふっかすいそさん)
hydrofluoric acid
フッ化水素HFの水溶液。フッ酸ともいう。蛍石の粉末に濃硫酸を加えて加熱し,発生するフッ化水素を冷却して得られる。共沸混合物は35.37%で,最高沸点は120℃。水和物としてはHF・H2O(融点-35.2℃),4HF・H2O(融点-100.3℃)などが知られている。無色の刺激性液体で,空気中で発煙し,有毒で,皮膚や粘膜を強く侵す。他のハロゲン化水素酸と異なり,希薄水溶液で弱酸性を示す。次のような解離平衡がある。HF⇄H⁺+F⁻,K1=[H⁺][F⁻]/[HF]=6.76×10⁻4mol/dm3。HF+F⁻⇄HF2⁻,K2=[HF2⁻]/[HF][F⁻]=3.9dm3/mol(25℃)。HF2⁻イオンは直線状で,KHF2の結晶構造解析の結果によればF-H-F結合距離は2.26Åで,中性子回折の結果によればH原子は2個のF原子の中央に存在している。金および白金以外のほとんどすべての金属を溶かす。銀および銅は常温で徐々に侵される。鉛のフッ化物は水に溶けにくいので,常温では鉛の表面がフッ化水素で侵されるのみである。二酸化ケイ素やケイ酸塩は,フッ化水素と反応し四フッ化ケイ素SiF4を生じ水に可溶となる。そのためガラスや石英は容易にフッ化水素酸に侵される。少量の場合はグッタペルカ,ポリエチレン,パラフィンで内部をおおった容器などを用いることができる。多量の場合は鉛または鉛で内張りした鉄製の容器が用いられる。ガラス加工用,フッ素および各種フッ化物ならびにフッ素化合物の合成用試薬などに利用される。
執筆者:大滝 仁志
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報