16世紀末から19世紀初頭にかけて,ベルギー西部のフランドル(およびブラバントの一部)に広く行われた6年ないし9年の輪栽式農法。中世以来続いてきた三圃制を乗り越える新農法としてヨーロッパ各国の農業家の注目を集めた。もともとフランドル地方には中世以来多数の都市が密集し,他方で荘園制も14世紀以来崩れて,小規模な小土地所有農民や小借地農の経営が一般化していた。このように,市場向け生産の便がよく,人口密度が高く,土壌も砂質でけっして肥沃とはいえないという条件のなかで,有効に農地を利用するためにさまざまの改良が積み重ねられた。その成果がこの農法である。これは三圃制の特徴である休閑地や共同放牧を廃止し,穀類に,クローバーやオオツメクサなどの栽培牧草,カブやニンジンなどの根菜,アマやホップなどの商品作物を組み合わせ,家畜は舎飼とするもので,厩肥に加えて都市の下肥や炉の灰などを大量に投下して地力を維持した。17世紀末からはジャガイモがこの体系に加わり,農民の主食となった。19世紀初頭ケンペン地方の一例では,(1)ジャガイモ,アマまたはナタネ,(2)ライムギ,(3)エンバク,(4)クローバー,(5)コムギまたはライムギ,(6)ライムギ,続いてカブ,の順で6年の輪作を行った。このように,フランドル農法では巨額の投資を必要とするため,借地人に対して,その投資を補償する〈作離れ料pachtersrecht〉の慣行も18世紀に確立していた。フランドル農法は,17世紀以降イギリスにも伝わり,その事情に合わせた新しい農法(たとえばノーフォーク農法)として普及し,また19世紀ドイツ農業にもさまざまの形でとり入れられた。
執筆者:石坂 昭雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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