ブラクトン(読み)ぶらくとん(その他表記)Henry de Bracton

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブラクトン」の意味・わかりやすい解説

ブラクトン
ぶらくとん
Henry de Bracton
(?―1268)

本名はBrattonまたはBretton。中世イギリスにおけるもっとも代表的な法学者。長らく巡回裁判所裁判官地位にあり、一時期、国王裁判所の裁判官も務めたことがある。また教区長や副監督、監督顧問などの聖職者として活躍している。主著イングランドの法と慣習について』は、豊富な判例を用いながら生成期にあるイギリス法を体系的に説明したもので、イギリス法の基本的著作の一つ。ここで述べられている「国王といえども神と法の下にある」ということばは、17世紀前半に、国王と議会対立が激化した際に、裁判官クック(コーク)によって、王権は法や議会によって制限されるという「法の支配観念に基づく政治思想に転化され、イギリス民主政治の実現に道を開いたものとして有名である。

田中 浩]

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改訂新版 世界大百科事典 「ブラクトン」の意味・わかりやすい解説

ブラクトン
Henry de Bracton
生没年:?-1268

イギリスの聖職者,裁判官。本名はブラトンBrattonであるが,ブラクトンと通称されている。初め役人として国王に仕え,1245年に裁判官として用いられている。以後死ぬまで国王の地方巡回の裁判官として活躍する一方,裁判官の初期には国王の中央の裁判官としても活躍した。英法についての著作が有名で,約2000の判例を集めた《ノート・ブック》と《イングランドの法と慣習法について》がある。特に後者は,当時生成しつつあった英法の実際を判例に依存しながら,主として手続力点を置いて説明しており,中世最大の英法書であり,英法そのものの発展にも非常に大きな影響を与えた。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ブラクトン」の意味・わかりやすい解説

ブラクトン
Bracton, Henry de

[生]?. デボン?
[没]1268. エクセター?
イギリスの法律家,裁判官。ときには中世イギリスで最も偉大な法律家といわれる。本名はブラットン Brattonであったが,死後ブラクトンの名で伝わる。法律家として名が現れるのは 1245年以降で,1248~68年に南西諸県,ことにサマセット,デボン,コーンウォールで巡回裁判所の判事を務めた。ローマ法教会法造詣が深く,1250~56年に中世イギリス法を集大成した『イギリス法律慣習法』De legibus et consuetudinibus Angliae(1235頃)は有名。同書中の「王もまた神と法の下にある」ということばは法の支配原理の象徴的言辞としてしばしば引用されている。

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世界大百科事典(旧版)内のブラクトンの言及

【法の支配】より

… 法の支配は,しばしば,英米法の基本原理の一つであるとされる。そして,17世紀初頭にイギリス国王と議会との間に抗争が生じた時期に,王権神授説を振りかざすジェームズ1世がコモン・ロー裁判所と教会裁判所の間の裁判権の争いについてみずから判決を下そうとしたのに対し,E.クックが,13世紀に公刊されたH.deブラクトンの有名な著作から,〈国王は何人の下にもあるべきではない。しかし,神と法の下にはあるべきである〉との一句を引いて対抗したというエピソードが,しばしば引用される。…

※「ブラクトン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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