プロスタグランジン

化学辞典 第2版の解説

プロスタグランジン
プロスタグランジン
prostaglandin

略称PG.1個の五員環をもつ,炭素数20のモノカルボン酸で生体内に広く分布していて多様な生理活性を示す物質の総称.研究の発端は,1930年,P. KurzockとC.C. Liebが人間の精液に子宮筋を収縮あるいは弛緩させる作用があるのを見いだしたことにあり,U.S. von Eulerらが,有機溶媒に可溶の有機酸成分を分離してプロスタグランジンと命名した.これらは,生体内でアラキドン酸エイコサペンタエン酸が酸化的に五員環形成したプロスタン酸の基本骨格をもち,五員環部分の酸素原子と二重結合の違いによりA~Jの各群が区別され,また,側の二重結合の数によって1~3群があり,これらを組み合わせて,PGE,PGF2などと表記される.さらに,9位にヒドロキシ基をもつ場合には,その立体をα,βで区別するので約20種類が知られている.PGの生理作用は複雑であり,心臓血管系,消化管,中枢神経,腎臓,血小板,内分泌器官,呼吸系,女性生殖器などの生体組織の機能を局所ホルモンとして調節していると考えられている.以下に2,3の具体例を示す.】プロスタグランジン E2.(5Z,11α,13E,15S)-11,15-dihydroxy-9-oxoprosta-5,13-diene-1-oic acid.C20H32O5(352.46).略称PGE2アラキドン酸よりエンドペルオキシドを経て生合成され,生体内組織に広く分布している.シクロペンタジエンを出発物質として10数行程で,また,PGF2αからも合成されている.無色の結晶.融点65~66 ℃,-61.0°(THF).メタノール,エタノールに易溶.pH 4以下または pH 8以上で容易に脱水される.血管拡張,胃液分泌抑制,腸管運動亢進,子宮収縮,利尿,気管支拡張,骨吸収,免疫抑制などの作用が知られている.分娩誘発剤.[CAS 363-24-6]【】プロスタグランジン F2α.(5Z,9α,11α,13E,15S)-9,11,15-trihydroxyprosta-5,13-diene-1-oic acid.C20H34O5(354.47).略称PGF2α.PGE2と同様に合成あるいは生合成される.融点25~35 ℃.+23.9°(THF).エタノール,酢酸エチル,クロロホルムに易溶,水に難溶.5~15 ℃ の遮光下で2年間は安定である.日光に当てると1週間で分解し,40 ℃ でも3か月で分解する.血管収縮,腸管運動亢進,子宮収縮,気管支収縮,黄体退行などの作用が知られている.[CAS 551-11-1]【】プロスタグランジン I2.(5Z,9α,11α,13E,15S)-6,9-epoxy-11,15-dihydroxyprostce-5,13-dien-1-oic acid.C20H32O5(352.46).略称PGI2プロスタサイクリンともよばれる.エポキシ部分が不安定で,通常,ナトリウム塩として合成,単離される.白色の粉末.融点166~168 ℃,または116~124 ℃.+88°(クロロホルム).トロンボキサン A2 よりは安定であるが,半減期は pH 7.6の緩衝液中20 ℃ で20 min,37 ℃ で10 min 以内,沸騰水中では15 s 以内で失活する.薬理作用はトロンボキサン A2 とは正反対であり,血小板凝集阻害,血圧降下作用がある.人工透析患者の体外循環時の血液凝固防止に用いられている.[CAS 35121-78-9]

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

プロスタグランジン
ぷろすたぐらんじん
prostaglandin

生体内で合成される生理活性物質で、炭素数20個の不飽和脂肪酸が骨組みとなっている。多くの種類があるが、組織中に存在し生理的に重要なものはプロスタグランジンE1、E2、F2α、I2、D2、H2、G2などであり、これらの誘導体で不安定ではあるが強力な生物活性をもつトロンボキサン、プロスタサイクリンなども含まれる。この物質の存在は、子宮収縮作用をもつことによって1930年ごろから注目され、1935年スウェーデンのフォン・オイラーによって、それまでに知られていない物質であることがわかり、精液に多いことから前立腺(せん)prostate glandにちなんで名づけられた。しかしその後、この物質は精嚢(せいのう)腺でつくられることがわかり、1950年代にスウェーデンのベルイストロームが単離、結晶化に成功し、化学構造を明らかにした。プロスタグランジンは多くの組織で微量ずつつくられるが、肺で破壊される。おもな作用は、子宮、血管、気管などの平滑筋に対するもの、血小板凝集の低下、胃酸分泌の低下などであるが、これらを利用して降圧剤、抗喘息(ぜんそく)剤、抗潰瘍(かいよう)剤、陣痛促進剤、血管系疾患に対する治療・予防薬に使用されている。

[大岡 宏]

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百科事典マイペディアの解説

プロスタグランジン

アラキドン酸,エイコサトリエン酸,エイコサペンタエン酸など,炭素数20の多価不飽和脂肪酸から生合成される一群の生理活性物質の総称。PGと略記。五員環部分に二つの側鎖がついた共通の基本骨格をもち,五員環部分の構造(二重結合と酸素原子の結合の仕方)の違いによりA〜Jの各群に区分され,側鎖の二重結合の数(もとの不飽和脂肪酸に由来)により1〜3のタイプがある。この両者を組み合わせて,PGI2,PGE1というふうに表示する。血圧降下,気管支収縮,子宮収縮,血管の収縮または拡張,血小板凝集の誘起または阻害,免疫抑制,利尿,睡眠誘発など各種それぞれに異なる生理作用はきわめて多岐にわたる。ホルモンとよく似た働き方をするが,生体の局所でつくられ,その近くだけに作用するので,局所ホルモンとも呼ばれる。医療として重要で,分娩誘発剤や血管拡張剤などとして用いられている。
→関連項目アラキドン酸ロイコトリエン

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

プロスタグランジン
prostaglandin

動物組織中の生理活性物質で,最初に人間の前立腺 (プロスタータ) が分泌部位として注目されたので,このように命名された。微量 (組織 1gあたり1/1000~1/100万 mg) であるが,分布は広く,また十数種の異なる類似物質が知られている。炭素五員環から,炭素7~8個の2本の鎖が伸び出た形の分子である。生理作用は子宮筋収縮,血管拡張,血圧降下,腸管収縮など,多彩にわたる。一種のホルモンともみられるが,他の多くのホルモンが細胞内にサイクリック AMP(cAMP)の増量を介して作用するのに対して,逆に cAMPレベルを低下させる。

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デジタル大辞泉の解説

プロスタグランジン(prostaglandin)

動物の臓器や組織に微量存在する一群の生理活性物質。アラキドン酸などの不飽和脂肪酸から生合成され、化学構造上の五員環の部分によって十数種に分類される。血管拡張、血圧上昇あるいは降下、子宮や気管支の筋収縮、血小板凝集あるいはその抑制などの作用を示す。PG。

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精選版 日本国語大辞典の解説

プロスタグランジン

〘名〙 (prostaglandin) ほとんどすべての細胞で合成され、直ちに代謝、不活性化される生体物質。生体内にごく微量含まれているが、循環系、呼吸系、血液、生殖器官(避妊作用)に対する生理活性のため、医学、薬学、生化学の分野で研究が進んでいる。

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世界大百科事典 第2版の解説

プロスタグランジン【prostaglandin】

PGと略記。生体内のあらゆる組織において細胞レベルで産生され,組織1g中に10-9gしかなくても各種の生物活性を現す強力な情報伝達物質。局所ホルモン,オータコイド様のものと考えられる。1930年に精液中の子宮収縮物質として発見され,35年に前立腺prostate由来と考えられてprostaglandinと命名された。食事で摂取されリン脂質に蓄えられたアラキドン酸などが,刺激に応じてPG合成酵素により変化をうけ,5員環を頭に20個の炭素をもつプロスタン酸を基本構造とする長鎖水酸基脂肪酸になったもの。

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世界大百科事典内のプロスタグランジンの言及

【痛み】より

…炎症のときにみられる表面痛は,局所に産生されるブラジキニンbradykinin,セロトニンなどの発痛物質によるもので,これらの発痛物質による痛みに関与する末梢神経繊維は,ポリモダル侵害受容繊維とよばれるC繊維である。炎症があると,これらの発痛物質のほか,プロスタグランジンE2とプロスタグランジンI2も局所に産生される。これらの物質は,直接的な発痛作用をもたないが,ブラジキニンによる痛みを強める働きがある。…

【解熱鎮痛薬】より


[アスピリン様薬物]
 1981年度のノーベル生理・医学賞を受けたイギリスの薬理学者ベインJohn R.Vaneの提唱(1971)に従って,アスピリンおよびアスピリンと同じようなメカニズムにより解熱・鎮痛・抗炎症作用を発揮するとみなされる薬物群をアスピリン様薬物という総称で呼ぶようになってきた。この部類に属する薬物を化学構造からみると実に多彩であるが,これらはすべてシクロオキシゲナーゼという酵素を阻害し,プロスタグランジン・トロンボキサン類の生合成を抑制することにより,本質的に共通の薬理作用を発現するという考えが支配的となっている。解熱作用に関していえば,それは中枢神経系の体温調節中枢に作用するプロスタグランジンの生合成を抑えるためである。…

【子宮収縮薬】より

…分娩の誘発または産後の子宮収縮・止血のために,子宮筋を収縮させる目的で用いられる薬物。脳下垂体後葉ホルモンと麦角アルカロイド製剤が用いられるが,最近になってプロスタグランジンも用いられるようになった。脳下垂体後葉ホルモンのうちオキシトシンは,9個のアミノ酸からなるペプチドで,子宮収縮作用が強く(似た構造をもつバソプレシンは血圧上昇作用および抗利尿作用が強い),陣痛の弱いときに分娩促進薬として繁用される。…

【堕胎薬】より

…日本ではホオズキの根が用いられたが,薬効成分は未詳である。今日では,子宮収縮作用をもったプロスタグランジンFが座薬として用いられる。【高柳 一成】。…

【分娩誘発法】より

… 陣痛を起こす方法には薬物を与える方法と理学的方法とがある。薬物とは子宮収縮を起こす陣痛促進剤で,通常オキシトシン(脳下垂体後葉製剤)かプロスタグランジンF,E2などが使用される。また理学的分娩誘発法としては,ブジーを用いる方法,ラミナリアによる方法,メトロイリーゼ,コルポイリーゼによる方法などがある。…

※「プロスタグランジン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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