ヘンチ(読み)へんち(英語表記)Philip Showalter Hench

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘンチ」の意味・わかりやすい解説

ヘンチ
へんち
Philip Showalter Hench
(1896―1965)

アメリカの医学者。リウマチの研究で知られる。1920年ピッツバーグ大学で学位をとり、1923年メイヨー・クリニックの助手、1935年準教授、1947年内科学教授となり、リウマチを専攻した。妊娠や黄疸(おうだん)などのときにリウマチが一時的に軽快する事実から、彼は、人体にリウマチを防ぐ未知因子があり、それは性ホルモン、胆汁酸貯留原因で、副腎(ふくじん)ステロイドが奏効するだろうと考えた。メイヨー財団の生理化学教授ケンドルの協力により、1948年に、初めて重症関節リウマチ患者にコルチゾンの注射を試み、疼痛(とうつう)の激減をみたので、さらに数例のリウマチ患者に注射して、コルチゾンの効果を確かめた。ヘンチの発表で、リウマチの治療にはコルチゾンが広く用いられるようになった。

 1950年、副腎皮質ホルモンの構造、生物作用と効果の業績により、ケンドル、ライヒシュタインスイスの生化学者)とともにノーベル医学生理学賞を受けた。彼はアメリカ・リウマチ学会設立者の一人で、ミネソタ大学、その他の大学から名誉学位を受けた。

古川 明]

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化学辞典 第2版 「ヘンチ」の解説

ヘンチ
ヘンチ
Hench, Philip Showalter

アメリカの生化学者.1920年ピッツバーグ大学で医学博士号を取得.1921年ミネソタ州に設立された医学教育と研究のためのメイヨー財団の研究員となり,財団のメイヨー・クリニックで研究生活のほとんどを過ごした.1926年リウマチ部門の長となり,1947年には財団の医学校の教授となった.その間1928~1929年ドイツに留学.メイヨー・クリニックでは,関節炎を専門とし,研究過程で黄だんの発生が関節炎患者の痛みを軽減したり,妊娠が同様の効果をもたらしたりすることから,痛みを軽減する物質ステロイドであると結論した.1930~1938年E.C. Kendall(ケンダル)が副腎皮質から数種類のステロイドを単離したが,かれとも共同で研究し,1948~1949年,のちにコルチゾンと命名される“化合物E”のいちじるしい薬効を確認した.以上のようなステロイド薬の開発により,1950年Kendall,T. Reichstein(ライヒシュタイン)とともにノーベル生理学・医学賞を受賞した.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「ヘンチ」の意味・わかりやすい解説

ヘンチ
Philip Showalter Hench
生没年:1896-1965

アメリカの医学者。ピッツバーグで生まれ,1920年ピッツバーグ大学で医学の学位を得た。21年ミネソタ州ロチェスターのメイヨー病院医員となり,32年ミネソタ大学助教授,47年教授に就任。リウマチ性関節炎の治療を課題としていたが,メイヨー病院の同僚である生化学者ケンドルEdward Kendall(1886-1972)が発見し,後に合成された副腎皮質コルチコイドE化合物(副腎皮質ホルモン)を投与したところ,劇的な著効を示した。現代ホルモン療法に一里塚を築いた貢献によって,ケンドル,スイスのライヒシュタインTadeusz Reichsteinとともに1950年ノーベル生理学・医学賞を受賞した。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヘンチ」の意味・わかりやすい解説

ヘンチ
Hench, Philip Showalter

[生]1896.2.28. ピッツバーグ
[没]1965.3.30. オチョリオス
アメリカの内科医,生化学者。 1932~35年ミネソタ大学助教授,35~47年同準教授,47年同教授。この間にメーヨークリニックでリウマチ部長をつとめ,その臨床面を研究し,32~48年『リウマチ年鑑』 Annual Rheumatism Reviewの編集者として手腕をふるった。 48年,重症関節リウマチの女性患者に副腎皮質ホルモンを投与して成功した。 50年,副腎皮質ホルモンの構造,ならびに生物学的効果の研究に対し,同ホルモンを単離した E.C.ケンドル,スイスの T.ライヒシュタインとともに,ノーベル生理学・医学賞受賞。

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百科事典マイペディア 「ヘンチ」の意味・わかりやすい解説

ヘンチ

米国の医学者。ピッツバーグ大学卒。メーヨー・クリニックのリウマチ科の科長,のちにミネソタ大学教授。リウマチの内分泌的原因を追求し,その治療剤として副腎皮質ホルモンのコーチゾンを発見。1950年ノーベル生理医学賞。

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世界大百科事典(旧版)内のヘンチの言及

【コルチゾン】より

…副腎皮質ホルモンのうち天然ホルモンとして医薬品に実用化されているのは,コルチゾンとヒドロコルチゾンである。とくにコルチゾンは,1949年ヘンチP.S.Hench,ケンダルE.C.Kendallらによって,リウマチ関節炎患者に対する劇的効果が報告され,内分泌研究・治療のうえで歴史的に有名になったホルモンである。ともに糖質コルチコイドに属し,主として抗炎症作用が広範囲に利用される。…

※「ヘンチ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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