ケンドル(読み)けんどる(その他表記)Henry W. Kendall

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ケンドル」の意味・わかりやすい解説

ケンドル(Henry W. Kendall)
けんどる
Henry W. Kendall
(1926―1999)

アメリカの実験物理学者。ボストン生まれ。マサチューセッツ州アマースト大学を1950年に卒業。大学院に進学したマサチューセッツ工科大学MIT)で、ポジトロニウムという粒子にあらわれる「ラム・シフト」とよばれるエネルギーのずれについて研究し、1955年に博士となる。スタンフォード大学では、のちにスタンフォード線形加速器研究所(SLAC:Stanford Linear Accelerator Center)にある巨大加速器の前身となる長さ約300フィート(約90メートル)の直線状の加速器を使い、陽子と中性子の構造について研究。1961年にMITに移り、J・フリードマンとも共同で研究を開始した。これら一連の研究で、陽子と中性子が「クォーク」とよばれる基本粒子の組み合わせでできていることを実験的に確認した。フリードマン、R・テーラーとともに、「陽子と重水素核による電子の深部非弾性散乱の研究、クォーク模型への貢献」により、1990年のノーベル物理学賞を受賞した。1969年からは、原子力発電や大気中の二酸化炭素の増加による地球温暖化など、科学や技術の進展が社会に与える影響を考える公的団体でも活動した。

[馬場錬成]


ケンドル(Edward Calvin Kendall)
けんどる
Edward Calvin Kendall
(1886―1972)

アメリカの生化学者。コネティカット州ノーウォークで生まれる。コロンビア大学で学び、1910年化学博士号を取得した。その後、パーク・デービス社で甲状腺(せん)について研究、ついでセント・ルーク病院に勤務ののち、1914年ミネソタ大学メイヨー財団の生化学主任を務め、1951年に退職後はプリンストン大学の客員教授となった。

 1915年に甲状腺から活性物質を単離し、これをチロキシンと命名した。さらに1930年代にはスイスの有機化学者ライヒシュタインと同時期に、ウシの副腎(ふくじん)から、副腎皮質ホルモンの一種であるコルチゾンコルチコステロンの単離に成功した。コルチゾンはのちにアメリカの医学者ヘンチによってリウマチに対する治療効果が確かめられた。この副腎皮質ホルモン単離などの業績により、1950年にライヒシュタイン、ヘンチとともにノーベル医学生理学賞を受賞した。

[編集部]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ケンドル」の意味・わかりやすい解説

ケンドル
Kendall, Edward Calvin

[生]1886.3.8. コネティカット,サウスノーウォーク
[没]1972.5.4. プリンストン
アメリカ合衆国の生化学者。1915年から 1951年までメーヨークリニックの生化学部長。1952年からプリンストン大学化学客員教授。甲状腺の研究からチロキシンを分離,またグルタチオンを結晶化し,その化学的性質を決定した。次いで副腎皮質の研究に転じ,1935年,ホルモンコーチゾン(コルチゾン)の分離に成功したのち,臨床への応用を研究し,1948年,コーチゾンを慢性関節リウマチに使用して成功した。1950年,副腎皮質ホルモンの研究によって,同僚のフィリップ・ショウォルター・ヘンチ,スイスのタデウス・ライヒシュタインとともにノーベル生理学・医学賞を受賞。

ケンドル
Kendal

イギリスイングランド北西部,カンブリア県南部,サウスレークランド地区の町。県都カーライルの南南東約 60kmにあり,ケント川に臨む。製靴,毛織物,敷物,製紙などの工業が行なわれ,石灰岩を産する。羊毛工業の歴史は古く,1331年フランドル人の織工が来住したことに始まり,「羊毛は私のパンだ」Pannus mihi panisをモットーに市民がこぞって羊毛工業の町づくりを推し進めてきた。ケンドル・グリーンと呼ばれる毛織物はもはやつくられていないが,カーペットなどの敷物には伝統的な技術がいかされている。美しいレークディストリクト(湖水地方)への観光基地。12世紀のホーリー・トリニティ聖堂,ローマ時代の遺跡などが保存されている。人口 2万8030(2001)。

ケンドル(婦人公)
ケンドル[ふじんこう]
Kendal, Ehrengard Melusina von der Schulenburg, Duchess of

[生]1667. ザクセン,エムデン
[没]1743. アイズルワース
イギリス王ジョージ1世の愛人。ドイツ生れ。 1692年ハノーバー選帝侯妃ソフィアの侍女になり,ソフィアの子ジョージ (のちの1世) の目に留まって,98年より彼の愛人になった。 1714年ジョージの即位とともにイギリスに渡り,16年ムンスター婦人公爵 (アイルランドの爵位) ,19年ケンドル婦人公爵に叙せられた。ルター派の敬虔な新教徒であったが,南海会社から多くの賄賂を受け,27年ジョージ1世の死後,反ウォルポール派の指導者になるなど,政治にはかなりの影響力をもった。晩年はアイズルワースのケンドル・ハウスに引退。

ケンドル
Kendall, Henry

[生]1839.4.18. ニューサウスウェールズ,カーミントン
[没]1882.8.1. シドニー
オーストラリア最初の注目すべき詩人。自国の風景を初めて歌った『オーストラリアの森から』 Leaves from Australian Forest (1869) ,『山の歌』 Songs from the Mountains (80) などがある。

ケンドル
Kendal, William Hunter

[生]1843.12.16. ロンドン
[没]1917.11.7. ロンドン
イギリスの俳優,劇場支配人。本名 Grimston。シェークスピアから軽喜劇まで,広い芸域で活躍。女優の妻マッジ (1849~1935) とともにセント・ジェームズ劇場を経営し,俳優の養成とその地位向上に努めた。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「ケンドル」の意味・わかりやすい解説

ケンドル

米国の生化学者。コロンビア大学で化学を学び,1914年メーヨー・クリニク生化学部門主任,1951年以降プリンストン大学化学教授。副腎皮質ホルモンの単離と合成の研究で,1950年ノーベル生理医学賞。ほかにチロキシンの分離,構造決定に業績がある。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android