ドイツの機械技術者で、今日の自動車の発明者の一人。ドイツ南西のバーデン・ウュルテンベルク州の、フランスのロレーヌに近いカールスルーエに生まれる。家は代々町長と鍛冶(かじ)屋を兼ね、父は鉄道の機関士だったが彼の生まれる4か月前に肺炎で死去。母に育てられ、19歳でカールスルーエ工科大学を卒業して数学と機関設計の学位を得た。各地を転々として働いたのちマンハイムに定住、28歳の1872年、のちに内助の功で有名になるベルタBertha Benz(1849―1944)夫人と結婚する。ブリキ工作用機械の製造販売などを行うが、1878年の暮れ、独力で2ストローク・ガソリンエンジン(ツーすとろーくがそりんえんじん)を完成、1883年10月1日、ベンツ&C・ライン・ガスエンジン工場を設立、エンジンの製造を開始した。
1884年には4ストローク・エンジン(フォーすとろーくえんじん)を製作、それを用いた三輪車は1886年1月26日「ガスエンジン駆動の乗り物」としてドイツ帝国特許第37435を与えられた。これが今日史上初の実用的なガソリン自動車とされているベンツの三輪車で、1986年に世界が自動車100年を祝う根拠になった。1893年には四輪のビクトリア、翌1894年には小型四輪車のベロを完成、世紀の変わり目にかけての世界中の自動車の設計に絶大な影響を与えた。1926年、ベンツ社は最大のライバルたるダイムラー社(車名メルセデス)と合併、ダイムラー・ベンツ社(車名メルセデス・ベンツ)となる。ベンツは合併後の新会社にも役員としてとどまった。
[高島鎮雄]
ドイツの機械技術者。カールスルーエ工業学校で機械工学を学ぶ。卒業後カールスルーエ機械製作所などで働き,1871年マンハイムに機械工作場を設立,77年ころから,かねての念願であった〈馬なし馬車〉,すなわち自動車の設計にとりかかった。80年には定置型の1馬力2サイクル・ガス機関を製作,工場用原動機として注目された。83年マンハイムにガス機関工場ベンツ社を設立し,原動機の生産,販売のかたわら自動車の発明にますます力を注いだ。そして早くも翌年には最初の試作品をつくり,85年G.ダイムラーとは独立に1気筒4サイクルのガソリンエンジンを製作,三輪車に搭載し初の現実的可能性のある自動車として工場敷地内を走らせた。88年には改良したモデル3型をミュンヘンの作業機・原動機の博覧会に出品,非公式な許可の下で1日2時間公開運転を行った。この動力三輪車は新聞などで絶賛され,博覧会の金賞を獲得したものの,89年のパリ博覧会でも販売市場の見通しは得られなかった。そこで四輪構造の自動車の研究に入り,92年から93年にかけて四輪用操舵装置を発明,さらに電気点火方式や気化器,冷却装置など個々の車両構造上の技術的改良にも成功,19世紀末には,車両の種類としても乗用車から競走用自動車,荷物自動車,豪華車など多様な生産を行うに至った。生産増に伴う資本調達問題に端を発した会社内部の争いにいや気がさし,1903年会社を引退,2人の息子とラーデンブルクに新会社を設立,余生を過ごした。
→ダイムラー・ベンツ[会社]
執筆者:木本 忠昭
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…高級乗用車メルセデス・ベンツMercedes‐Benzで知られるドイツの自動車メーカー。バス,トラックの生産でもヨーロッパのトップクラス。…
…混合気の点火は熱した管によって行い,また気化器にはガソリン液柱の底から空気を通して気化する方式を採用していたが,このダイムラーのガソリンエンジンが実用的なガソリンエンジンの最初といえる。一方,C.ベンツも86年に電気火花点火式の4サイクルガソリンエンジンをつくり,三輪車を走らせた。このようにガソリンエンジンは,まず自動車用エンジンとして発明,発達し,高速化・高出力化,耐久性・信頼性の向上などがはかられた。…
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[技術開発の時代]
内燃機関の理論を確立したN.A.オットーは,1876年に可燃性ガスを燃料とする火花点火のガス機関を改良し,ピストンとクランクを組み合わせた4サイクル作動方式の内燃機関の実用化に成功した。ドイツのG.ダイムラーは,このオットーの機関をさらに改良して,ついに実用に耐えうるガソリンエンジンをつくり,85年にガソリンエンジン二輪車を完成,また同年ドイツのC.ベンツもガソリンエンジン三輪車を完成し翌年に公開試運転を行っている。これらが今日の自動車の原型である。…
…フランスのミシュラン兄弟は,95年パリ~ボルドー間1200kmレースに,自作の空気入りゴムタイヤをプジョーにつけて出場,パンクに次ぐパンクで22本のチューブを使い,ソリッドタイヤをつけた自動車に敗れはしたが,とにかく完走した。その前年ドイツのK.ベンツは四輪自動車の量産に取り組み,初めのうちはソリッドタイヤを用いていたが,96年にはその改良モデル車に空気入りゴムタイヤを採用した。この年アメリカにおいても自動車用のタイヤがつくられている。…
※「ベンツ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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