日本大百科全書(ニッポニカ) 「ペルオキシダーゼ」の意味・わかりやすい解説
ペルオキシダーゼ
ぺるおきしだーぜ
peroxidase
酸化還元酵素の一種。過酸化水素または有機過酸化物による還元性の有機化合物、たとえばアスコルビン酸やp(パラ)-アミノ安息香酸などの酸化を触媒する酵素である。一般にH2O2+AH2→2H2O+Aの反応を触媒する。1942年スウェーデンの生化学者テオレルによってセイヨウワサビ(ワサビダイコン)から最初に結晶化された。
動物・植物・微生物界に広く分布するが、それぞれの性質は多少異なる。セイヨウワサビにとくに多量に含まれ、古くから研究されており、狭義のペルオキシダーゼはこの酵素をさす。分子量は4万4000で、1分子当り1個のプロトヘム(プロトポルフィリンに2価の鉄がついたもの)を含む複合タンパク質で、カタラーゼと同様に鉄ポルフィリンタンパク質である。タンパク質部分とプロトヘムの鉄を銅やコバルトで置換しても酵素活性を失う。しかし、鉄だけではほとんど触媒作用を示さない。すなわち、プロトヘムはこの酵素の補欠分子族(補欠分子団)である。補欠分子族としてプロトヘムをもつものの例としては、甲状腺に存在するヨウ化物ペルオキシダーゼがあり、分子量は約10万でチロシンの生合成に関与している。このほか、牛乳から単離・結晶化されたものはラクトペルオキシダーゼともいい、分子量は約7万である。さらに、哺乳(ほにゅう)動物の肝臓、心臓や赤血球にはグルタチオンペルオキシダーゼが存在する。この酵素は分子量約2.3万のモノマーの四量体で、セレンを含有するセレノシステインを活性中心にもつ。過酸化水素や過酸化脂質の分解により、膜脂質やヘモグロビンを酸化から保護する抗酸化酵素として重要である。また、酵母にはチトクロムの酸化に関与する分子量約3.4万のチトクロムcペルオキシダーゼが存在する。
[飯島道子]
『内海耕慥・井上正康監修『新ミトコンドリア学』(2001・共立出版)』▽『R・K・マレー他著、上代淑人・清水孝雄監訳『ハーパー生化学』原書28版(2011・丸善)』