日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミクロボディ」の意味・わかりやすい解説
ミクロボディ
みくろぼでぃ
microbody
真核細胞に広く存在するオルガネラ(細胞小器官)であり、マウスの腎(じん)尿細管上皮細胞を電子顕微鏡で観察し発見された(1954。ローディンJ. Rhodin、1922―2004)。直径0.1~1μm(マイクロメートル。1μm=1000分の1ミリメートル)の球形ないし楕円(だえん)体の一重膜構造体であり、形態学的名称として、ミクロボディとよばれる。このオルガネラは、ミトコンドリアや葉緑体とは異なり、タンパク質はすべて核DNA(デオキシリボ核酸)由来である。
ラット肝細胞において、このオルガネラ内に過酸化水素を生成するオキシダーゼ群と分解を行うカタラーゼが存在することが明らかとなり、機能的名称としてペルオキシゾーム(ペルオキシソーム)と命名された(1965年、ド・デューブ)。
ペルオキシゾームは、植物の種子ではグリオキシゾームとよばれ、発芽に伴ってグリオキシル酸回路が働き、脂肪を糖に変換する。緑葉ではリーフペルオキシゾームとよばれ、葉緑体やミトコンドリアと共同して光呼吸反応し、グリコール酸を酸化する。
動物のペルオキシゾームは、脂肪酸代謝、呼吸、極長鎖脂肪酸β(ベータ)酸化(炭素原子が2個少ない脂肪酸になる生体酸化経路)、胆汁酸生成、コレステロール生合成、プラスマロゲン(エーテル型リン脂質の一種)生成、アミノ基転移・酸化反応など多くの生理機能をもつ。
これらの生理機能の障害や、ペルオキシゾームそのものが形態学的に認められない疾患群の総称をぺルオキシゾーム病(ペルオキシゾーム異常症。神経細胞の変性や副腎の機能不全などを伴う疾病の副腎白質ジストロフィーなどがある)とよぶ。
[髙木智子・大隅正子]
『野口知雄著『ペルオキシソーム』(1985・講談社)』▽『永井進編『酵母の細胞工学と育種』(1986・学会出版センター)』▽『佐藤七郎著『細胞生物学』(1986・岩波書店)』▽『平野正編『酵母のバイオテクノロジー――基礎と応用』(1988・学会出版センター)』▽『Mark Carroll著、山高里盛訳『オルガネラ』(1990・共立出版)』▽『クリスチャン・ド・デューブ著、八杉貞男ほか訳『細胞の世界を旅する』上(1990・東京化学同人)』▽『日本生化学会編『新生化学実験講座15 代謝異常』(1992・東京化学同人)』▽『東野一弥・山本章編『最新内科学大系11 代謝疾患6 ミトコンドリア病、リソソーム病』(1996・中山書店)』▽『米田悦啓・中野明彦編『細胞内物質輸送のダイナミズム』(1999・シュプリンガー・フェアラーク東京)』▽『森道夫編『病気と細胞小器官――細胞から病気のしくみを理解する』(2002・文光堂)』