ヘム(読み)へむ(英語表記)heme

翻訳|heme

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘム」の意味・わかりやすい解説

ヘム
へむ
heme

広義には鉄とポルフィリン錯塩を総称し、狭義には2価の鉄イオンがポルフィリンに配位したものをさし、3価の鉄イオンが配位した錯塩は、とくにヘマチンhematinともいう。ポルフィリンの種類によって、ヘムa、ヘムb(プロトヘム)、ヘムcなどと分類される。これらはすべて赤色を呈する色素であり、生体内ではタンパク質と結合してそれぞれ特有の働きをしている。たとえば、ヘモグロビン(血色素)やミオグロビンなどは酸素の運搬貯蔵をつかさどり、カタラーゼペルオキシダーゼチトクロム類などは活性酸素を分解したり、生体エネルギーを生産する酸化還元反応を触媒する酵素の活性部分として重要な役割を果たしている。これは、ヘムが酸素や電子を運ぶ働きをもつことによる。なお、ソーセージやベーコンなどの肉製品には、発色剤として亜硝酸塩が使われている。肉類に含まれるミオグロビンやヘモグロビンのヘムの2価の鉄イオンが徐々に酸化され、褐色に変化する。これに亜硝酸塩を添加すると、ニトロソミオグロビンニトロソヘモグロビンをつくり、鉄イオンの酸化を防ぎ、美しい赤色を保つようになるためである。

[池内昌彦・馬淵一誠]

『宮地重遠編『現代植物生理学2 代謝』(1992・朝倉書店)』『ポルフィリン研究会編『ポルフィリン・ヘムの生命科学――遺伝病・がん・工学応用などへの展開』(1995・東京化学同人)』『ステファン・ゴールドバーグ著、神奈木玲児訳『臨床に役立つ生化学』(1997・総合医学社)』『毎田徹夫ほか編『医科生化学』(2000・南江堂)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヘム」の意味・わかりやすい解説

ヘム
heme

一般に,生体内に存在する鉄-ポルフィリン錯化合物をヘムと呼ぶ。プロトヘムはその代表的なもので,プロトポルフィリン IXと2価の鉄イオンとの錯化合物。褐色針状晶として得られ,酸化されやすく,鉄原子が3価に酸化されてヘマチンが,また塩素イオンの存在下では (クロロ-) ヘミンが得られる。逆にこれらのものを適当な条件で還元するとヘムをつくることができる。細胞中に遊離状態でも微量存在するが,多くの場合,蛋白質と結合してヘモグロビンミオグロビンとして存在し,酸素の運搬や貯蔵に関与している。ヘム (プロトヘムも含む) には酸化還元に関係する酵素の補欠分子団となるものがある。このようなヘムを必要とする酵素をヘム酵素と呼ぶが,チトクローム系やペルオキシダーゼなどはその例。

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