翻訳|paperback
紙表紙を用いた低価格の軽装本。ソフトカバーsoftcoverともよばれ、上製の堅表紙本(ハードカバーhardcover)と対比した意味で用いられる。日本の文庫本、新書判がこれにあたる。ヨーロッパのペーパーバックの起源は、1837年にドイツで発刊されたタウフニッツTauchnitzとされているが、第一次世界大戦以前において世界的にもっとも著名な軽装本シリーズは、日本では「レクラム文庫」で知られるドイツのレクラム社Reclam Verlag刊行の万有文庫Universal-Bibliothekであった。第一次世界大戦後においては、1935年にイギリスで発刊されたペンギン・ブックスPenguin Booksと、39年にアメリカで創刊されたポケット・ブックスPocket Booksが著名である。
両シリーズは、第二次世界大戦後の教育普及、国民所得の向上、余暇時間の拡大といった社会変革を背景として、世界の主要出版国において、出版革命とよばれるほどのペーパーバック出版の推進、普及に貢献した。出版革命の進展につれ、既刊ハードカバーの再刊だけでなく、ハードカバーとの同時出版、書き下ろし作品の出版も盛んになり、また内容も学術論文、美術、児童文学に至るまでの多様化が進んだ。また、公共図書館でのペーパーバックの貸出しが目だつようになったり、ペーパーバック専門のブック・クラブが誕生するなど、ハードカバーにかわって出版界の主流となるまでに至った。
ところが、1998年のアメリカにおけるペーパーバックの年間売上げ冊数は4億8000万冊で、1990年代なかばに比べて約9%減少した。ペーパーバック1冊の平均価格が上昇しているため、年間売上高は約15億ドルに達し、利益は生み出しているものの、売上げの不振が続いている。かつては上製のハードカバー1冊の売上げに対してペーパーバックは8~10冊もの売上げを記録していたが、90年代終わりではペーパーバック1冊につきハードカバー2冊と逆転するに至っている。
その売上げ不振の要因としては、以下のような点が指摘されよう。
(1)有力読者層が高齢化し、小型活字を読むのが困難となっている。
(2)ペーパーバック取次業界での吸収合併が活発化した結果、業者数が激減し、小売店(スーパーマーケット、ドラッグストアなど)への卸し業務が十分に機能できなくなった。
(3)ペーパーバックの価格上昇によって、大幅割引き(20~40%引き)されるハードカバー新刊書との価格差が消滅している。
[金平聖之助]
『金平聖之助著『世界のペーパーバック』(1973・出版同人)』▽『R・エスカルピ著、清水英夫訳『出版革命』(1979・日本エディタースクール出版部)』▽『枝川公一著『ペーパーバック入門』(講談社現代新書)』▽『P・スフリューデルス著、渡辺洋一訳『ペーパーバック大全 USA 1939-1959』(1992・晶文社)』
紙表紙を用いた軽装本。ソフトカバー・ブックsoftcover bookともいう。上製本である堅表紙本(ハードカバー)hardcover bookあるいは布表紙本clothbound bookなどに対して名づけられたものだが,〈それは数万部以下で出版されることはなく,1冊の定価も1時間相当の労働賃金を超えることはあまりない〉(R. エスカルピ)といわれるように,その特徴は大量性と廉価性にある。ペーパーバックの始まりは19世紀のドイツやアメリカに求めることができるが,内容・形態の点からみて,1935年にイギリスのアレン・レーンが刊行したペンギン・ブックスこそ今日的ペーパーバックの始まりといえよう。ペンギン・ブックスは大量販売を条件に極端な廉価政策(当時のイギリスにおける平均の書籍価格の15分の1)をとって成功をおさめた。これに刺激されて2年後にはノンフィクションを主とするペリカン・ブックスPelican Booksも創刊され,39年にはアメリカのド・グラフDe Graffがポケット・ブックスPocket Booksを発刊した。ポケット・ブックスは,ドラッグストアや新聞売店で販売するなど読者層の拡大に成功し,アメリカ50年代のクオリティ・ペーパーバックquality paperbackを中心とする〈ペーパーバック革命〉の口火を切った。日本では〈新書〉といわれるものがその代表的なもので,1938年に創刊された岩波新書を始まりとするが,ペーパーバックという形で一般に注目されるようになったのは,54年に創刊されたカッパ・ブックス(光文社)以来のことである。
ペーパーバックの普及は,とくに第2次大戦後の大衆社会化状況に伴う現象であるが,今日のアメリカではその新刊の発行点数が全体の約4割を占めている(1994現在)。日本においても新書と文庫本をあわせた新刊の発行点数は全体の2割に近い。大資本出版社による大量販売は,一方で読書を画一化し,本を消耗品にしたといわれるが,高度の学術書から娯楽読物まで気軽に手にとれるという点で,とくに青年層には書籍の中心的形態として評価されている。
執筆者:川井 良介
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 図書館情報学用語辞典 第4版図書館情報学用語辞典 第5版について 情報
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