翻訳|homeless
ホームレスということばは、英語圏では17世紀ごろから用いられており、古くは、バガボンド(流れ者)、ホボ(渡り労働者)、ルンペン、家出青少年、安宿(ドヤ)止宿者、住所不定など、世界中でさまざまな呼び方でよばれてきた人々の状態を総称したものであった。このような古いホームレスはしばしば乞食(こじき)、屑(くず)拾い、季節労働者などとの関連、あるいは安宿を提供するドヤ街などとの関連で問題にされた。一方1980年代から欧米で社会問題となったホームレスは、若年者や家族など多様な人々の存在を含んだ新しいホームレスとして注目を集め、アメリカではアンダークラス論、ヨーロッパでは社会的排除(social exclusion)の一形態として議論されることになった。この背景には、ポスト工業化とグローバリゼーションの拡大のなかで広がった労働者の格差や不安定化、また家族の縮小、都市の再開発等があるといわれている。開発途上国においても、ホームレス問題は深刻であり、国連では1987年に「家のない人々のための国際居住年」International Year of Shelter for the Homelessを制定した。
[岩田正美]
ホームとは一方では慣習的な住居を意味し、ホームレスはこれが確保できない状態を意味する。他方でホームは生活の拠点としての家族生活をも意味し、ホームレスとはこれを形成できず、社会や家族から切り離されている状態を示す用語として使用されることもある。つまりホームレスは「慣習的な住居」をもたないこと、社会との絆(きずな)が希薄になっている状態であると定義づけられる。
しかし、慣習的な住居が確保できない状態には、野宿などルーフレス(屋根がない)状態から、安宿や労働宿舎、友人宅などへの止宿、さらには不適切な住宅(極端に狭い、危険)状態までいくつかのグレードがある。したがってホームレスの数の測定やその特徴の具体的把握は、このグレードのどこまでをホームレスとよぶかによって異なってくる。日本の「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」(ホームレス自立支援法)では、ホームレスを公共の場で日常生活を営んでいる者、つまり路上生活者の範囲に限定しているが、イギリスの住宅法による定義では、占有できる住居をもっていない状態の世帯やその成員であり、家があっても暴力などによって立ち入れない場合やホームレスになる可能性がある場合も含んでいる。こうした違いがあるためにホームレスの特徴についても単純な比較はできないが、欧米の新しいホームレスが若年者や家族を多く含み、住宅の不足や脱施設化等との関連で特徴づけられているのに対して、日本のホームレスは中高年男性の失業問題として受け止められてきた。近年は、インターネットカフェや漫画喫茶など、終夜営業の店舗で夜をすごす新たなホームレスの存在や、若年化が問題となっている。
[岩田正美]
日本では1980年代のバブル経済によって、労働者生活の格差や不安定化は先送りにされてきた。しかし、バブル崩壊後の1990年代に入ると、大都市の公共施設を占拠して起居せざるをえない野宿者が急増してきた。2003年(平成15)の全国調査では約2万5000人の野宿者が確認され、平均年齢55歳の中高年男性が中心で、失職や収入の減少を理由にあげた人が多かった。
このような事態に対処するため、ようやく2002年8月に議員立法による「ホームレス自立支援法」が10年の時限立法として公布、施行されるに至った。これに基づいて、国や各自治体は実施計画を策定して対策に取り組むこととなった。このような施策の効果もあり、路上生活者の概数は次第に減少し、2011年1月時点で約1万人と発表されている。だが、2006年の厚生労働省の生活実態調査によれば、総数の減少にも関わらず新規参入層が3割強存在し、他方で長期に路上にとどまり高齢化している人々や、再流入層の存在が明らかになった。路上以外での場所に隠されている若年ホームレスの問題もあり、課題はなかなか克服されることがなく、「ホームレス自立支援法」の期限は2012年に5年間、さらに2017年に10年間延長された。
[岩田正美]
『クリストファー・ジェンクス著、大和弘毅訳『ホームレス』(1995・図書出版社)』▽『岩田正美著『ホームレス/現代社会/福祉国家――「生きていく場所」をめぐって』(2000・明石書店)』▽『岩田正美・西澤晃彦編著『貧困と社会的排除――福祉社会を蝕むもの』(2005・ミネルヴァ書房)』▽『『ホームレスの実態に関する全国調査報告書』(2007・厚生労働省)』▽『David Levinson ed.Encyclopedia of Homelessness(2004, Sage Publications)』
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