改訂新版 世界大百科事典 「ボーチェ」の意味・わかりやすい解説
ボーチェ
La Voce
イタリアの雑誌。文芸批評家ジュゼッペ・プレッツォリーニによって1908年12月にフィレンツェで創刊された。初めは週刊であったが,1913年には月2回の刊行となった。雑誌は,プレッツォリーニが編集責任者を務めた14年12月までと,以後,同じく文芸批評家のデ・ロベルティスGiuseppe De Robertis(1888-1963)が編集を引き継いで16年12月の終刊にいたるまでの2期のあいだで,その性格が大きく変わった。クローチェの反実証主義の影響を強く受けたプレッツォリーニは,第1次世界大戦前のイタリアの社会が内包するさまざまな矛盾を解消するために,思想的な立場は異なっていても,知的で誠実な人々に議論の場を提供することを目ざした。事実,南部問題,普通選挙権,教育,イタリアによるリビア併合,回復主義などの政治・社会問題が,主要記事として登場した。しかし寄稿家たちの思想基盤の多様性がリビア戦争を機に雑誌の分裂を推進する結果になり,この戦争に強く反対したサルベーミニがまず脱退し,一時編集を受けもったパピーニは新たに《ラチェルバ》誌を創刊して未来派に接近し,プレッツォリーニ自身も第1次世界大戦への積極的な参戦論を唱えるようになり,雑誌は初期の目的を完全に見失うにいたった。その後,デ・ロベルティスが編集を担当すると,雑誌は完全な文芸誌と化し,ウンガレッティをはじめ,カルダレリ,カンパーナ,セラなど多彩な寄稿家を加えるようになったが,新たな文学運動を展開することもなく,アンソロジー的な性格の強い雑誌となった。
執筆者:川名 公平
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報