知恵蔵
「ポストコロニアリズム」の解説
ポストコロニアリズム
経済や文化、政治に残存する植民地主義の影響を明らかにし、現状を変革するための思想。「ポスト」という接頭辞は、様々な地域が解放された後に、現在もなお植民地主義の影響のもとにあるということを強調するために用いられている。植民地の多くは、第2次大戦後政治的に独立したにもかかわらず、先進国に経済的に依存せざるをえない状況が続いた。グローバリズムの進展に伴い経済的依存はますます高まり、情報や文化資本の流入によって固有の文化を維持する困難にも直面してきた。こうした現実に対して、特に1960年代以降、いまなお植民地主義の影響下にあるという問題意識のもとで、旧植民地出身者による不平等や格差の克服への取り組みが現れてきた。植民地主義の遺制は経済的な側面だけではなく、民族や人種、宗教、ジェンダー、セクシュアリティーなど様々な要因の組み合わせが複雑に関連し合っている。ポストコロニアリズムには、文学テキストに刻印されている、植民地主義による支配・被支配の相互関係を読み解くもの、歴史における戦争暴力を問うものなど、領域横断的な取り組みが見られる。アラブ世界への理解が西洋の支配的な言説によって表象されてきたことを明らかにした、サイードの『オリエンタリズム』(78年)はその代表的な作品と見なされている。
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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「ポストコロニアリズム」の意味・わかりやすい解説
ポストコロニアリズム
近代ヨーロッパの思想と文化が,大航海時代以後の侵略や帝国主義による植民地支配を前提としながら,その事実を,意識的・無意識的に忘却していることを批判する思考と実践。特に,そうした近代の思想と文化が,植民地支配の暴力と深く結びついていることに痛みを伴った自覚を促そうとする。植民地支配に起源をもつ政治や文化が,独立を果たした旧植民地国と旧宗主国の双方の社会において,いまも存続するばかりか,たえず新しく再生産され続け,さまざまな権力関係における対立や闘争として現れていることを明らかにし,文学批評から政治思想にわたる近代社会の分析に新しい認識の地平を開いた。代表的な論者として,E.サイード,G.スピバック,ホミ・バーバがあげられる。
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