翻訳|polystyrene
スチレンを重合して得られる代表的な汎用熱可塑性樹脂。スチレン樹脂styrene resin,ポリスチロールpolystyrolとも呼ばれる。スチレンおよびポリスチレンの発見は,1836年のドイツのシモンE.Simonにさかのぼるが,工業化はまずスチレン・ブタジエンゴム(ブナS)として1933年に,ポリスチレン成形品としては35年に,ドイツのイーゲー・ファルベン社で始まった。成形品が広く一般に用いられるようになったのは第2次大戦後のことである。日本でも樹脂の生産は57年になって,三菱モンサント化成,旭ダウによって始められた。
ポリスチレンは硬く,透明性にすぐれ,電気特性もよく,しかも大量生産に支えられて安いため,台所用品,文具,家具などの日用品,自動車用の大型成形品,テレビキャビネットなどの電化製品など,あらゆるところで用いられている。また,樹脂にブタン,ペンタン,ヘキサンなどの発泡剤を配合し,加熱発泡させた発泡ポリスチレン(発泡スチロールともいう)も,断熱材,緩衝材,畳などとして広い用途をもつ。木材代替として用いられる低発泡品から,機械や電化製品などの包装用緩衝材として用いられる高発泡品まで多岐にわたり,低発泡シートは合成紙(ポリスチレンペーパー)としても用いられる。生産量もポリエチレン,ポリプロピレン,ポリ塩化ビニルに次ぎ第4位である。
樹脂は一般にはスチレンのラジカル重合で得られる。
塊状重合法,溶液重合法,乳化重合法,懸濁重合法などいろいろなプロセスがあるが,塊状重合または懸濁重合によることが多い。
たとえば水200部に対し,スチレン100部,0.5部の過酸化ベンゾイル,少量の懸濁安定剤を加え,90~100℃で6時間ほどかくはん(攪拌)するとビーズ状のポリスチレンが得られる。ふつう分子量は10万前後である。ラジカル重合以外にもカチオン重合も可能であり,フッ化ホウ素,塩化スズによっても重合するが,工業的にはあまり用いられていない。チーグラー触媒,アルフィン触媒(ナトリウムアルコラート)によっても重合する。おもに射出成形によって,数cmの機械部品から,数mという自動車用パネルまで容易にかつ精密に成形できる。成形温度は230~250℃である。ガラス繊維強化も行われる。
ポリスチレンは硬く,剛性が高いが,衝撃に弱く,耐熱性が低いなどの問題点がある。そこで耐衝撃性の改善のため,ゴム成分,たとえばポリブタジエンのブレンドあるいは共重合が行われる。耐衝撃性向上ポリスチレンをハイインパクトポリスチレン(HI-ポリスチレン)という。耐熱性向上のためα-メチルスチレン,無水マレイン酸の共重合も行われる。耐熱性ポリスチレンは100℃の熱水に耐える。アクリロニトリルとの共重合体であるAS樹脂,ABS樹脂も改質ポリスチレンの一種である。標準ポリスチレン,耐衝撃性ポリスチレン,耐熱性ポリスチレンのおもな物性は表に示すとおりである。
執筆者:森川 正信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
略称PS.スチレンの重合体で,スチレン樹脂,スチロール樹脂ともいう.工業的には,塊状重合,溶液重合,懸濁重合,乳化重合などの方法でつくられる.無色透明.密度1.05~1.07 g cm-3.ガラス転移温度82 ℃.1.60.引張強さ35~56 MPa.誘電率が小さく吸湿性がなく,熱流動性,熱安定性もよいため,代表的な熱可塑性樹脂として,電気および熱の絶縁材のほか,種々の日常用品に利用されている.[CAS 9003-53-6]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
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