イタリア,フィレンツェ派マニエリスムの第一世代の代表的画家。本名カルッチJacopo Carrucci(Carucci)。トスカナのポントルモ(現,ポントルメPontorme)生れ。アルベルティネリとピエロ・ディ・コジモの弟子。フラ・バルトロメオ,アンドレア・デル・サルトの後期古典様式(アカデミック化し,雄弁化した)を受け継いだが,1518年サン・ミケーレ・ビスドミニ教会に描いた祭壇画で早くも著しい反古典主義的技術を見せる。古典主義的手法・様式を守る一方,人体の動きと形態,表情と視線,空間把握に過度の優美さ,誇張,引伸し,歪み,混乱が感じられる。この傾向は,1518年《エジプトのヨセフ》,20-21年ポッジョ・ア・カイアーノ荘のフレスコといっそう強まり,23-24年にフィレンツェ南西郊ガルッツォGalluzzoのカルトゥジア(チェルトーザ)会修道院で制作した〈受難〉シリーズ(現在ほとんど消失)では,バザーリにより〈デューラーの悪しき影響〉と指摘されるまでになった。これはゴシック風の引き伸ばされた人体比例と,線描の表現主義的な強調が北方版画との類似性を招いたものとみられる。恣意的な人体比例,複雑な蛇状姿態(フィグーラ・セルペンティナータ),空間の合理性の放棄は,サンタ・フェリチタのカッポーニ礼拝堂の《キリストの降架》(1526)で極まった。また色彩は自然模倣から解放され,純粋で抽象的な美を獲得している。晩年サン・ロレンツォの《キリストの復活と最後の審判》(1546-56。現在消失)のデッサンは著しくミケランジェロの影響をこうむり,複雑な人体の形象によって画面を埋めつくす反古典主義的様式を顕著に示し,フィレンツェ派中期のマニエリストに大きな影響を与えた。
執筆者:若桑 みどり
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イタリアの画家。本名Jacopo Carucci。通称は生地エンポリ近郊ポントルモ(現ポントルメ)に由来。バザーリの『美術家列伝』によれば、最初レオナルド・ダ・ビンチの弟子であったという。その後ピエロ・ディ・コジモの弟子を経て、1512年ころサルトの工房に入り、翌年独立。初期作品においてはフィレンツェ盛期ルネサンスの影響下にあったが、サン・ミケーレ・ビズドミーニ聖堂の祭壇画(1518)において古典様式の殻を破り、マニエリスムへの志向を明確にした。その後メディチ家別荘ポッジョ・ア・カイアーノのルネット装飾(1519~21)およびデューラーの版画に着想を得たガルッツォのチェルトーザ修道院の壁画連作『受難』(1523~24)において、次々と新機軸を打ち出した。そしてサンタ・フェリチタ聖堂の装飾(1525~28)によって円熟したマニエリスムの画風を確立し、フィレンツェ・マニエリスムの発展の基礎を固めた。その祭壇画『十字架降下』は彼の代表作である。
1530年以降ミケランジェロに傾倒し、カレッジ(1535~36)およびカステッロ(1537~43)のメディチ家別荘の回廊装飾、サン・ロレンツォ聖堂メディチ家礼拝堂の壁画装飾(1546~56、彼の死後ブロンツィーノにより完成)に従事。これらの装飾は現存しないが、残された素描から、彼が卓越した素描家であったことがうかがい知れる。また肖像画家としても優れていた。最晩年の「日記」(1554年から56年の日付をもつ)は、彼の興味深い生活記録である。フィレンツェに没。
[三好 徹]
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…したがって,すでに16世紀に,マニエリスム的傾向を非難する古典主義的理論家に,マニエリストを〈ミケランジェロの模倣者たち〉と同一視する傾向があったのは当然のことといえる。初期マニエリストの画家のうち,ロッソ・フィオレンティーノ,とりわけポントルモはミケランジェロから決定的な影響を受け,古典主義の限界を脱したということができる。しかし,ミケランジェロの芸術が他を圧して16世紀を支配するようになったのは,ミケランジェロの以上の特徴が,〈自然模倣〉という原則から〈主観的表現〉への変化を示していたためである。…
※「ポントルモ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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