キリスト教美術の主題の一つで、「聖告」あるいは「お告げ」ともよばれる。この図像は、『ルカ福音書(ふくいんしょ)』(1章26~38節)に記されているように、神の使者たる大天使ガブリエルが処女マリアにキリストの懐妊を告げ知らせる物語を主題にした、キリストの幼児物語のなかで最初に位置し、キリスト教美術でももっともよく知られた場面になっている。
外典聖書の『ヤコブの原福音書』によると、受胎告知は二度行われ、まず井戸のそばで天使が姿を見せずに声だけでマリアに告げ知らせ、さらに家に帰って紫色の糸を紡ぐマリアに、今度は人の姿をしたガブリエルが現れ、そのことばがマリアの胎内に入るというものである。初期キリスト教美術およびビザンティン美術では、井戸端のマリアへの受胎告知と、室内で糸紡ぎのマリアへの受胎告知との2形式が使い分けられている。西欧美術には第三の表現形式が生まれている。おそらく『偽ボナベントゥーラの瞑想(めいそう)』に出典をもつもので、読書という瞑想中のマリアに大天使ガブリエルが現れる形式である。ジョットやシモーネ・マルティーニをはじめとする14世紀イタリアの画家たちはこの形式の受胎告知をすでに描いている。
この場合のマリアのポーズには、立像、座像、あるいはひざまずくというバリエーションがみられる。天使の数は普通ガブリエル1人であるが、2人ないしは3人の天使が登場することもある。神の使者として聖霊のハトが描かれることもある。天使はユリの花を持つことが多いが、この花は白く、しかも雌雄の区別がないためにマリアの処女性の象徴となっている。天使は神の使者にふさわしく、杖(つえ)を手にすることもある。北方ルネサンスの画家たちはユリの花を天使の手にではなく傍らの花瓶に描くが、ユリ以外にも、赤いバラ(慈愛の象徴)、青紫のオダマキの花(のちに磔刑(たっけい)に処せられるキリストを思う聖母の悲しみの象徴)、赤紫のスミレ(謙遜(けんそん)の象徴)などの花々が描かれることがある。
[名取四郎]
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…大天使ガブリエルが神からつかわされて,ナザレの一処女マリアのもとに現れ,彼女が救世主(メシア)を産むこと(処女降誕)を告げる場面。〈受胎告知〉〈お告げ〉ともいう。《ルカによる福音書》1章26~38節に記される。…
※「受胎告知」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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