改訂新版 世界大百科事典 「マツカレハ」の意味・わかりやすい解説
マツカレハ (松枯葉)
Dendrolimus spectabilis
鱗翅目カレハガ科の昆虫。翅の開張は,雄で4~6cm,雌で6~8cm。前翅には白帯が3本あり,中央の帯は鋸歯状,外縁部の帯の外側には黒褐色紋を連ねる。雄ではこれら2帯の間が赤褐色。腹部や後翅は枯葉のような赤褐色をしている。大きさ,色彩斑紋には変異があり,一般に前翅は雌のほうが黒っぽい。日本全国に分布し,年1回夏に羽化するが,南西諸島や伊豆諸島南部では2回発生し,成虫は小型で,前翅の斑紋が不明りょうとなる。夜行性で,よく灯火に飛来し,静止する際は翅を屋根状にたたむ。
幼虫はアカマツ,クロマツなどマツ属のほかカラマツの葉を食べる大害虫で,マツケムシと呼ばれる。老熟すると体長7cmに達する。背面は銀白色で,紫黒色の毛がまばらに生え,中・後胸節背面には帯状に針状の毒毛が密生している。この毛は,繭をつくるときに周囲に多数付着するので,皮膚にささると痛みと炎症を起こす。夏に産卵され孵化(ふか)した幼虫は,秋になると,枝から樹幹を降りて,根際などに潜伏して越冬し,春に再び木に登って葉を食べ,6月ころに老熟して蛹化(ようか)する。気温があまり低下しない秋早く,マツの樹幹にむしろなどを帯状に巻いて置けば,越冬のため降りてきた若齢幼虫が,この中に潜り込んでしまうので,冬の間にむしろとともに幼虫を捕殺する駆除法はきわめて有効である。日本のほか,朝鮮半島やサハリンでも,マツの害虫として被害がたいへん大きい。
執筆者:井上 寛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報