ケインズ学派を批判して1960年代に台頭した学派で,その首唱者はM.フリードマンである。この学派の人々をマネタリストmonetaristと呼ぶ。思想的にはシカゴ学派の一分派であり,その理論的基礎は新貨幣数量説という貨幣理論であるが,実際には貨幣数量説より広い意味をもつ。新貨幣数量説は,J.M.ケインズがケインズ革命において批判した古典派の貨幣理論であった貨幣数量説を,とくにインフレの分析に有用な形で復活させ,かつ現代的なものにしたものである。1960~70年代にケインズ学派がインフレに対する有効な分析と対策を打ち出さなかったことを批判してその勢力を強めたので,しばしばケインズ革命に対する〈反革命〉と呼ばれる。しかし新貨幣数量説はI.フィッシャーの貨幣数量説や利子論等をうけつぎながら,同時にケインズの理論も一部とり入れており,その対立点にはあいまいな点も多い。マネタリズムの最大の特徴は,物価や名目所得の変動をもたらす最大の要因が貨幣量(貨幣供給量すなわちマネー・サプライ)の変動であることを強調することである。たとえばマネタリストは,財政政策の効果はせいぜい一時的か,ほとんどないと主張する。これに対してケインズ学派は,貨幣量を左右する金融政策がつねに有効であるとは限らないとして,財政政策を(景気調整の手段として)重視する。またケインズ学派が経済政策の運営にあたって利子を低めに安定させ,景気を刺激し,完全雇用を維持することを目標としたのに対し,マネタリストは利子率は重要視せず,貨幣供給の量の安定を重視し,また雇用より物価の安定を重んじた。またケインズ学派が景気の各局面において,財政・金融政策をもってきめ細かに経済に介入し,景気の調整に熱心であったのに対して,フリードマンはこのような〈調節〉は景気の不安定化を招くとして反対し,代りに貨幣供給の増加率を長期間一定に保つことによって景気の安定化を図るべきであると主張する。
このような立場の相違はマネタリストとケインズ学派の経済思想上の基本的対立を反映している。すなわち前者は,市場メカニズムは元来健全で円滑に働くものであり,政府の介入がなければ自然と完全雇用(自然失業率と対応する)が達成されるというシカゴ学派の立場をとる。他方,ケインズ学派は,市場メカニズムはそれほど円滑には働かず,長期間にわたって失業を存続させるという不安定性をもっているから政府の介入が必要であると考える。以上はフリードマンの考え方を中心に述べたが,現実のマネタリズムは貨幣供給を主として重視するという程度のより広い意味に用いられることも多く,マネタリストのなかにもケインズ学派の理論を事実上一部採用しているものも少なくない。
執筆者:鬼塚 雄丞
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(荒川章義 九州大学助教授 / 2007年)
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…なぜならば,ケインズ経済学のもとでは貨幣量の変化は人々の支出(需要行動)にせいぜい間接的な影響を与えるにすぎないとみなされていたからである。経済における貨幣供給量(マネー・サプライ)の制御を重要視する考え方,すなわちマネタリズムは古典的な貨幣数量説の伝統を受け継ぐM.フリードマンら一部の経済学者によって絶えず主張されつづけたが,1960年代後半に至るまで経済政策に関する学説の主流とはなりえなかった。 以上のような事情は70年代に入って一変する。…
…これらの経済には,上述したような最大の総産出量の存在は必ずしも明らかでなくなる。 E.S.フェルプス,M.フリードマンらのマネタリスト(マネタリズム)と呼ばれる経済学者は,1960年代末,物価上昇と失業率との短期的なトレードオフを認めるとしても,長期的なトレードオフ関係についてはこれを否定している。失業率は長期的には物価水準の変化率がゼロまたは一定となる自然失業率の水準に落ち着き,長期フィリップス曲線は自然率で垂直になる。…
…すなわち,古典派,新古典派のパラダイムの中心的部分の一つは貨幣数量説である。最近のアメリカにおける反ケインズ革命,M.フリードマンを中心とするマネタリズムは貨幣数量説の最新版である(新貨幣数量説ともいう)が,ケインズ以前の貨幣数量説と比べると雇用量の変動を説明する新しい理論がつけ加えられているので,古典派,新古典派のパラダイムの復活が可能になったのである。【根岸 隆】
【マルクス経済学の発展】
[マルクス経済学の特質]
資本主義経済の運動原理ならびに現実的発展と現状を,その歴史性とあわせて体系的に解明しようとするところに,マルクス経済学の特質がある。…
… ケインズ学派に特徴的なことは,政府がこうした総需要管理政策を積極的に行うことを主張することである。この点,新古典派経済学(現代ではM.フリードマンらのマネタリズムもこの系譜に属する)が経済の運営を民間部門,あるいは市場機構に任せるべきだとし,政府の介入を嫌うのときわめて対照的である。新古典派が信頼をよせる市場(価格)機構が必ずしもいつも完全に機能するとは限らず,経済は時として総需要の不足に陥ることになるから,そういうときには自由放任主義ではなく政府が積極的な総需要管理政策を行うべきだ,というのがケインズ派の基本的な立場である。…
…しかし1960年代後半になってから,とくにアメリカ経済を中心にして起きた大混乱期を通じて,ケインズ経済学の現実的妥当性,政策的有効性が問われるようになり,その理論的基礎もまた疑問視されるようになっていった。このとき,ケインズ以前の新古典派理論(新古典派経済学)に立って,ケインズ経済学に対して活発な批判を展開したのが,いわゆるマネタリズムの考え方に立つ経済学者たちであった。その基本的な考え方は,自由放任主義に近く,政治的保守主義を経済学に移植したものであって,70年代に入ってからとくに著しくなったアメリカ社会全体の保守化,反動化の流れに沿うものであった。…
…この点について経済学には大別して二つの考え方がある。
[マネタリズムの考え方]
まず第1の考え方は,一般物価水準は貨幣で計った財の(集合の)価格であるから,いいかえればそれは財で計った貨幣の価格の逆数にほかならないという事実に注目する。さて(財で計った)貨幣の価格は,その供給量が増大すれば下落するというのは,ある財(たとえばパン)の価格がその供給量の上昇に伴って下落するのと同じであるから,結局一般物価水準(貨幣の価格の逆数)は貨幣の供給量が増加すれば上昇するということになる。…
…48年から76年までシカゴ大学教授,のちスタンフォード大学フーバー研究所に移る。フリードマンは,経済活動の基礎には貨幣の働きがあり,とくに貨幣供給量の変化によって経済活動全体の動きが大きく左右されるという信念をもち,いわゆるマネタリズムの考え方を提唱した。また市場制度を通じて自由な経済活動が行われるとき,社会的にみて最も望ましい資源配分が実現されるという,古典派経済学の考え方に新しい時代の衣を着せての啓蒙的な面での活躍も著しい。…
…したがって価値保蔵手段としての通貨という場合にも,現金のみではなく,広義マネー・サプライをみるほうが適切である。
[マネタリズムとマネー・サプライ]
経済理論の分野でマネー・サプライが脚光をあびるようになったのは,M.フリードマンを中心とするマネタリズムの主張に負うところが大きい。フリードマンは,アメリカの50年以上にも及ぶ時系列データを調べた結果,マネー・サプライ残高で名目所得を除した比率(通貨の流通速度)のほうが,財政支出で所得を除した比率(所得乗数)よりも安定していることを示し,名目所得に対する効果はマネー・サプライのほうが財政支出よりも安定しているとし,マネー・サプライ・コントロールのほうが財政支出政策よりも有効性が高いと主張した。…
※「マネタリズム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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