マレイン酸(読み)まれいんさん(英語表記)maleic acid

翻訳|maleic acid

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マレイン酸」の意味・わかりやすい解説

マレイン酸
まれいんさん
maleic acid

不飽和ジカルボン酸の一種。フマル酸の幾何異性体で、シス形の1,2-エチレンジカルボン酸である。1817年にリンゴ酸の乾留により無水物として得られた。五酸化バナジウムを触媒として、ベンゼン気相で空気酸化すると無水マレイン酸とともに得られる。無水マレイン酸は水と反応させるとマレイン酸になるので、マレイン酸のみを得ることができる。融解とともに異性化してトランス形のフマル酸になるが、160℃以上の温度では無水マレイン酸になる。無水物の生成はシス形のマレイン酸でおこりやすく、トランス形のフマル酸では高温にしないとおこらない。


 水、エタノールエチルアルコール)に溶ける。リンゴ酸やコハク酸の合成原料アルキド樹脂の原料となるほか、油脂防腐剤や、羊毛木綿の染色仕上げ剤、薬剤のマレイン酸塩調製などの用途がある。生体内での役割は少なく、ある種の細菌でフマル酸への異性化酵素がみいだされている。

[廣田 穰・池田加代子 2016年2月17日]


マレイン酸(データノート)
まれいんさんでーたのーと

マレイン酸
分子式C4H4O4
分子量116.1
融点133~134℃(フマル酸に異性化)
密度1.59g/cm3
溶解度79g/100mL水(25℃)
解離定数K1=4.2×10-2
K2=1.18×10-6

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改訂新版 世界大百科事典 「マレイン酸」の意味・わかりやすい解説

マレイン酸 (マレインさん)
maleic acid


シス-1,2-エチレンジカルボン酸のことで,トランス型のフマル酸とは幾何異性の関係にある。融点133~134℃の無色結晶。フマル酸に比べて水に溶けやすく,エチルアルコール,エーテルにも易溶,ベンゼンに難溶。135℃でゆっくり加熱すると安定形であるフマル酸に異性化するが,強熱すると水を失って無水マレイン酸になる。二塩基酸であるから,水中では2段の解離をして酸性を示す(酸解離指数pK1=1.92,pK2=6.23)。

 五酸化バナジウム触媒によるベンゼンの空気酸化によって,無水マレイン酸との混合物として製造される。コハク酸,酒石酸,リンゴ酸などの合成原料となるほか,無水マレイン酸やマレイン酸ジエステルの形でディールス=アルダー反応(ジエン合成)に用いられ,環状化合物の合成に使用される。また,ロジンや多価アルコールとともにマレイン酸樹脂の原料としても重要である。
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化学辞典 第2版 「マレイン酸」の解説

マレイン酸
マレインサン
maleic acid

(Z)-butenedioic acid.C4H4O4(116.07).不飽和の二塩基酸.五酸化バナジウムを触媒としてベンゼンやブテンを気相酸化して得る.このとき,無水マレイン酸とともに得られるが,反応物を水に吸収させるとマレイン酸のみが得られる.無色の結晶.融点130~131 ℃,沸点138 ℃.pK1 1.94,pK2 6.22.水,エタノール,エーテルに易溶.フマル酸と幾何異性の関係にある.マレイン酸は160 ℃ で容易に無水マレイン酸にかわり,また種々の条件下でフマル酸に異性化する.有機合成上重要なリンゴ酸,コハク酸,酒石酸などの原料となる.アルキド樹脂や不飽和ポリエステル樹脂などの原料にもなる.強い刺激性を有する化合物.[CAS 110-16-7]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マレイン酸」の意味・わかりやすい解説

マレイン酸
マレインさん
maleic acid

有機合成原料として重要な二塩基酸。水,エチルアルコール,エーテルに易溶。フマル酸の幾何異性体で,種々の条件のもとでフマル酸に異性化する。マレイン酸では2個のカルボキシル基がエチレン結合をはさんでシス形に配位している。無色の結晶,融点 130℃。ベンゼンを気相酸化して生成する無水マレイン酸を,水で加水分解して得られる。アルキド樹脂の原料,酸の標準物質としてアルカリ標準液の検定に用いられる。次の構造をもつ。

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百科事典マイペディア 「マレイン酸」の意味・わかりやすい解説

マレイン酸【マレインさん】

化学式はC4H4O4。無色の結晶。融点133〜134℃。水,エタノールに易溶。160℃で沸騰して無水マレイン酸と水になる。フマル酸の幾何異性体に当たり,アルキド樹脂の原料,リンゴ酸,コハク酸などの有機酸の合成原料として用いられる。五酸化バナジウムを触媒とし,ベンゼンを気相酸化して得る。(図)

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