フマル酸(読み)フマルさん(その他表記)fumaric acid

改訂新版 世界大百科事典 「フマル酸」の意味・わかりやすい解説

フマル酸 (フマルさん)
fumaric acid


最も簡単な不飽和ジカルボン酸構造的にはトランス型で,シス型のマレイン酸幾何異性体である。遊離の酸としてケシ科カラクサケマン属Fumariaなど多くの植物中に含まれているため,この名がある。また,ある種のコケ類にも含まれている。融点300~302℃(封管中)の特異な酸味を有する無色の針状結晶で,200℃付近で昇華する。エチルアルコール可溶,水,エーテルアセトンに難溶,ベンゼンには不溶。マレイン酸よりは安定であるが,融点付近で加熱すると無水マレイン酸と水に分解する。還元すればコハク酸過マンガン酸カリウムで酸化するとラセミ酒石酸,水と加熱するとラセミリンゴ酸が得られる。マレイン酸の異性化,リゾプス属の糸状菌による糖類の発酵により製造される。ジュース,サイダー,果実缶詰などの酸味料として用いられる。
執筆者: 生化学的にはクエン酸回路TCA回路クレブス回路)の中間生成物の一つで,コハク酸の酸化によって生ずる。アミノ酸の代謝においては,チロシンフェニルアラニンの一部がフマル酸を経てクエン酸回路に入る。また,クエン酸回路の他の中間産物とともに,ホスホエノールピルビン酸を経て糖新生にも利用される。その他尿素回路からも生成されたり,ある種の微生物ではフマル酸発酵によって合成される。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「フマル酸」の意味・わかりやすい解説

フマル酸
ふまるさん
fumaric acid

不飽和ジカルボン酸の一つ。マレイン酸の幾何異性体である。化学式C4H4O4分子量116.1。一つの二重結合に二つのカルボキシ基-COOHをもつ化合物のうち、二重結合の反対側(トランスtrans)に二つのカルボキシ基をもつのがフマル酸、同じ側(シスcis)に二つのカルボキシ基をもつのがマレイン酸で、両者は幾何異性体の関係にある。


 天然には、アイスランド産のコケや菌類中に遊離の酸の形で存在し、動物体内での物質代謝サイクルの一員としても重要である。

 フマル酸発酵により得られるが、マレイン酸の異性化により製造することもできる。融点300~302℃(封管中)、昇華性がある無色の結晶。水、エタノール(エチルアルコール)には溶けるが、エーテルには溶けにくく、ベンゼンには溶けない。高温に保つと無水マレイン酸に変化する。合成樹脂や染料の原料として用いられる。

[廣田 穰 2015年7月21日]


フマル酸(データノート)
ふまるさんでーたのーと

フマル酸

 分子式  C4H4O4
 分子量  116.1
 融点   300~302℃(封管中。無水マレイン酸に分解)
 沸点   (昇華)
 密度   1.63
 解離定数 K1=9.3×10-4
      K2=2.9×10-5
 溶解度  0.63g/100mL水(測定温度25℃)

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化学辞典 第2版 「フマル酸」の解説

フマル酸
フマルサン
fumaric acid

(E)-2-butenedioic acid.C4H4O4(116.07).不飽和の二塩基酸.いろいろな植物中に含まれる.生化学的には,トリカルボン酸サイクルの一員として,コハク酸の脱水素反応により生じる重要な代謝中間体.シス形のマレイン酸と幾何異性の関係にある.マレイン酸の異性化あるいはグリオキシル酸とマロン酸との縮合によって得られる.また工業的には,グルコースのフマル酸発酵によってつくられる.無色の針状結晶.融点287 ℃(封管中).200 ℃ で昇華する.密度1.625 g cm-3K1 9.3×10-4K2 10-5(25 ℃).水,エタノールに可溶,エーテル,アセトンに難溶,ベンゼンに不溶.230 ℃ で異性化脱水して無水マレイン酸になる.生体内では,水を付加したリンゴ酸やアンモニアを付加したアスパラギン酸の原料となっている.食品添加物,抗酸剤,合成樹脂や染料の原料に用いられる.[CAS 110-17-8]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フマル酸」の意味・わかりやすい解説

フマル酸
フマルさん
fumaric acid

トランス-1,2-エチレンジカルボン酸のこと。不飽和二塩基酸で,マレイン酸の幾何異性体。無色柱状晶または針状晶。融点 300~302℃ (封管中) 。封管中,水と 150~170℃に熱するとマレイン酸となる。水に難溶,種々の植物中に存在する。生化学的にはクエン酸サイクルや C4 -ジカルボン酸サイクルに関与し,アンモニウムイオンの存在では,アスパルターゼの作用でL-アスパラギン酸に変化するなど,重要な物質である。次の構造をもつ。

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百科事典マイペディア 「フマル酸」の意味・わかりやすい解説

フマル酸【フマルさん】

最も簡単な不飽和ジカルボン酸C4H4O4。無色の結晶。融点300〜302℃(封管中)。水に微溶,エタノールに可溶。マレイン酸の幾何異性体にあたる。生体内では,糖などの代謝に重要なクエン酸回路の中間体として,コハク酸の脱水素反応で生ずる。(図)

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栄養・生化学辞典 「フマル酸」の解説

フマル酸

 C4H4O4 (mw116.07).

 クエン酸回路の構成成分.

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