日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジエン合成」の意味・わかりやすい解説
ジエン合成
じえんごうせい
diene synthesis
ブタジエンなどの共役二重結合をもつジエンと、無水マレイン酸、アセチレンカルボン酸エステルなどの親ジエン体との付加環化反応により6員環状の化合物を生成する反応で、6員環の合成に有用である。たとえば、ブタジエンと無水マレイン酸からはcis(シス)-1,2,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物が定量的に得られる( )。この反応は1928年にドイツのディールスとアルダーにより発見されたのでディールス‐アルダー反応ともよばれる。彼らはこの業績により1950年ノーベル化学賞を受賞した。
ジエンと反応する相手を親ジエン体dienophile(親ジエン試薬ともいう)とよび、無水マレイン酸やp(パラ)-ベンゾキノンあるいはアセチレンカルボン酸エチルのように、カルボニル基、カルボキシ基(カルボキシル基)、シアノ基、ニトロ基などにより活性化された二重結合、三重結合をもつ化合物が用いられる。
この反応の多くは常温で進行し、高温に加熱すると逆反応によって元のジエンと親ジエン体に戻る。この反応は天然有機化合物の構造決定に利用できるので、逆反応も重要である。正反応・逆反応ともに立体選択性が高く一定の法則(アルダー則)に従う。福井謙一とアメリカのホフマンは分子軌道法を用いてこれを明らかにした。1981年ノーベル化学賞受賞業績の重要な実証反応である。
[湯川泰秀・廣田 穰]