石炭,木材,ピッチなどの固体有機物を,空気の流通を断って熱分解する操作をいう。これによって可燃性のガスや液体とともに,コークスや木炭が得られる。ここでは石炭および木材の乾留について述べよう。
空気を供給することなく石炭を加熱すると,まず吸蔵されていた水分やガスが放出されるが,300℃くらいから熱分解が始まる。熱分解反応の開始温度は,石炭化度の低い石炭では低く,石炭化度の高い石炭では高い。熱分解によってガス,水,コールタールなどが発生するが,コールタールの生成は約500℃で終了し,ガスの発生は1000℃くらいまで続く。粘結炭では熱分解開始温度の前後から軟化,溶融が起こり,コールタールの発生がやむ500℃くらいでは再び固化し,さらに高温に加熱されれば良質のコークスが得られる。
石炭の乾留は低温乾留と高温乾留に区分される。低温乾留は500~600℃で行われ,一般に非粘結炭を原料とする。このとき得られる低温タールは,高温乾留にくらべて,生成量は多いが芳香族化合物が少なく,脂肪族化合物に富んでいる。石油代替の液体燃料として用いられる。また低温乾留で得られるコークス(半成コークス,コーライトと呼ばれる)は家庭用の無煙炭となる。低温乾留はかつて日本でも盛んに行われたが現在はほとんど行われていない。
石炭の高温乾留の生成物は,ガス,コールタール,およびコークスであるが,そのいずれが主目的となるかは企業の立場による。すなわち,都市ガス事業にあってはガスが,化学工業にあってはコールタールおよびコークスが,また製鉄業にとってはコークスが,それぞれ主目的である。現在は都市ガス業および化学工業では石炭の高温乾留はあまり行われていないが,製鉄業では盛んに行われている。製鉄原料用のコークス製造には粘結炭が好んで用いられる。またコークス製造装置をコークス炉と呼ぶ。
木材を乾留すると,ガス,木酢液,および木炭(炭)が得られる。木材の乾留は現在もいわゆる炭焼きとして小規模に行われているが,昔は工業的に大規模に行われた。製鉄用に木炭が使用されたためであるが,同時に木酢液からはメタノールや酢酸が回収された。現在は製鉄用には石炭からのコークスが用いられるようになり,またメタノールや酢酸は合成法によって供給されるようになって,木材乾留工業はほとんど消滅した。
執筆者:冨永 博夫
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空気を遮断して木材、石炭などの固体有機物を加熱・分解することにより、アンモニアを含むガス液(木炭の場合は木酢液(もくさくえき)という)、油状物質のタールなどを得る操作をいう。石炭の場合、使用温度により低温乾留、高温乾留がある。
[田上 茂]
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出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…地層の堆積がさらに進むと,この植物遺体は地中深く埋没され,地圧や地熱の影響を受け,炭素分が増し,固くなっていく。この過程が石炭化であり,その間に働く〈石炭化作用(変成作用)〉は,高圧のもとでひじょうにゆっくり進む一種の熱分解(深い地中で酸素の供給がない状態であるから,乾留ともいえる)である。 石炭化は時間とともに進み,一般に生成年代が古いほど〈石炭化度〉が高くなる。…
※「乾留」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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