改訂新版 世界大百科事典 「マロン酸」の意味・わかりやすい解説
マロン酸 (マロンさん)
malonic acid
鎖式ジカルボン酸の一つ。はじめにリンゴ酸malic acidの酸化によって得られたのでこの名がつけられた。天然にはカルシウム塩としてテンサイの中に含まれる。融点135℃の無色結晶で,水,エチルアルコールによく溶け,エーテルに微溶。水溶液は酢酸よりも強い酸性を示し,酸解離指数(25℃)はpK1=2.855,pK2=5.696。熱に対して不安定で,融点以上に加熱すると二酸化炭素と酢酸に分解する。無水物は知られておらず,五酸化リンを作用させると2分子の水を失って三二酸化炭素O=C=C=C=O(無色の有毒気体)を生じる。モノクロロ酢酸のアルカリ塩水溶液にシアン化カリウムを反応させて得られるシアン酢酸塩NC-CH2COOKを塩酸存在下に加水分解して合成される。中和滴定における酸の1次標準物や金属イオンのマスキング剤として用いられる。また医薬品や農薬,香料などの合成中間体として広く用いられるほか,実験室での有機合成試薬として利用される。とくにマロン酸ジエチルCH2(COOC2H5)2は,二つのエステルグループに囲まれたメチレン基-CH2-の水素原子が,アルカリの存在下ではプロトンとして脱離してアルカリ金属に置換されやすいため,ハロゲン化アルキルと容易に反応してアルキル基置換マロン酸エステルを生じる。これを加水分解後加熱すると炭酸ガスを失ってカルボン酸を生成する。この一連の反応をマロン酸エステル合成法といい,ハロゲン化アルキルから出発して炭素数の2個多いカルボン酸を合成する方法としてよく知られている。
そのほか,ニトロセルロースの可塑剤として用いられる。
執筆者:井畑 敏一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報