クロロ酢酸(読み)クロロサクサン

化学辞典 第2版 「クロロ酢酸」の解説

クロロ酢酸
クロロサクサン
chloroacetic acid

酢酸塩素置換体に相当し,その程度によって異なる3種類のものがある.一般にはモノクロロ酢酸をさす.【】モノクロロ酢酸:C2H3ClO2(94.50).CH2ClCOOH.酢酸を少量の硫黄,ヨウ素などの存在下で塩素化するか,トリクロロエテン硫酸で処理すると得られる.無色潮解結晶1.58.3種類の形があり,それぞれの融点はα形:63 ℃,β形:55~56 ℃,γ形:50 ℃.沸点189 ℃,104 ℃(2.66 kPa).水,エタノール,ベンゼンクロロホルムエーテルに可溶.水溶液は酢酸より強酸である.pKa 2.85,Ka 1.55×10-2(25 ℃).アンモニアと反応してグリシンに,またシアン化カリウムと反応してシアン酢酸になる.種々の有機合成の原料になる.[CAS 79-11-8]【ジクロロ酢酸:C2H2Cl2O2(128.95).CHCl2COOH.モノクロロ酢酸を塩素化すると得られる.液体.融点9.7 ℃,沸点193~194 ℃,102 ℃(2.6 kPa).1.563.水,エタノール,エーテルに易溶.加水分解するとグリオキシル酸になる.刺激臭を有する.[CAS 79-43-6]【トリクロロ酢酸:C2HCl3O2(163.39).CCl3COOH.クロラールを硝酸酸化するか,ジクロロ酢酸をさらに塩素化すると得られる.無色の潮解性結晶.融点57~58 ℃,沸点197 ℃,142 ℃(3.3 kPa).1.629.水,エタノール,エーテルに易溶.モノクロロ酢酸,ジクロロ酢酸より強酸である.pH 1.2.希アルカリで加水分解されてクロロホルムと二酸化炭素になる.また,濃アルカリではギ酸になる.腐食剤,角質溶解剤などのほか,生体のリン酸化合物,タンパク質脂質などの分画分析に用いられる.強い腐食性を有する.[CAS 76-03-9] 
三者とも皮膚,粘膜などをおかすのでとくに注意が必要である.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クロロ酢酸」の意味・わかりやすい解説

クロロ酢酸
くろろさくさん
chloroacetic acid

脂肪族カルボン酸の一つで、酢酸の塩素置換体にあたる。潮解性の無色結晶。工業的にはトリクロロエチレンを90%硫酸中に通し加水分解することにより製造する。硫黄(いおう)などを触媒とし酢酸を塩素化することによっても合成できる。3種の結晶形があり、それぞれ融点が異なる。水に溶け、水溶液は酢酸より酸性が強い。塩素原子は置換されやすく、アンモニアとの反応によりグリシンを、シアン化アルカリとの反応によりシアン酢酸を生成する。セルロースとの反応によるカルボキシメチルセルロース(CMC)合成に用いられる。皮膚、粘膜を冒す。

[谷利陸平]


クロロ酢酸(データノート)
くろろさくさんでーたのーと

クロロ酢酸

 分子式  C2H3ClO2
 分子量  94.5
 融点   α 62.3℃
      β 56.2℃
      γ 50.2℃
 沸点   187.85℃
 屈折率  (n)1.4330

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「クロロ酢酸」の意味・わかりやすい解説

クロロ酢酸 (クロロさくさん)
chloroacetic acid

酢酸のメチル基を塩素で置換した化合物。塩素原子の個数に応じて,モノクロロ酢酸(一置換),ジクロロ酢酸(二置換),トリクロロ酢酸(三置換)の3種類の置換体が存在する。ふつうクロロ酢酸といえばモノクロロ酢酸をさす。酸の解離指数(pKa)は25℃においてそれぞれ2.866,1.257,0.635で,塩素の置換が多いほど酸として強くなる。塩素原子の電子吸引的な誘起効果が加重される結果と考えられる。ちなみに酢酸の酸解離指数は4.756である。

化学式ClCH2COOH。3種類の多形が知られているが,通常市販されているものは融点62.3℃の結晶である。沸点はいずれも187.85℃。非常によく水に溶ける。少量の硫黄またはヨウ素の存在下で酢酸に塩素を作用させることにより合成される。トリクロロエチレンを90%硫酸で加水分解しても得られる。マロン酸やグリコール酸などの原料。

化学式Cl2CHCOOH。融点13.50℃。沸点192~193℃。抱水クロラールをシアン化ナトリウムの存在下で加熱すると生成する。

化学式Cl3CCOOH。融点57.4℃。沸点197.5℃。非常に強い腐食性をもつ。水またはアルカリと加熱するとクロロホルムと炭酸になる。工業的には酢酸を完全に塩素化して合成されるが,実験室的には抱水クロラールを硝酸で酸化すると得られる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クロロ酢酸」の意味・わかりやすい解説

クロロ酢酸
クロロさくさん
chloroacetic acid

モノクロロ酢酸ともいう。化学式 ClCH2COOH 。ヨウ素,赤リンなどの存在下で酢酸に塩素を作用させるか,トリクロロエチレンを硫酸で処理することによって得られる潮解性の結晶。融点が 61.3℃,56.2℃,52.5℃の3種の結晶がある。水,エチルアルコール,ベンゼンに可溶。沸点 189℃。この酸およびそのアルカリ塩またはアンモニウム塩の組合せは緩衝溶液として使われる。

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