マンション建替え円滑化法(読み)まんしょんたてかええんかつかほう

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

マンション建替え円滑化法
まんしょんたてかええんかつかほう

戸建住宅に比べ、土地・建物の権利関係が複雑なマンションの建替えなどによる再生を促すため、その手続や方法などを定めた法律。2002年(平成14)に成立・施行された。正式名称は「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」(平成14年法律第78号)。建替え、敷地売却、団地敷地の分割処分などに関し、これらに取り組む組合などの団体の法的位置づけや運営ルールを明確にし、対象となるマンションの範囲を拡大して、容積率順次緩和しながら再生を促している。しかし老朽化マンションの急増住人の合意形成や災害対応のむずかしさ、資材価格の高騰など、マンション再生をめぐる実態に同法規定が追い付いておらず、繰り返し改正を余儀なくされている。

 同法の目的は、マンション住人らの区分所有者が、建替えや敷地売却などに取り組む法人格の「組合」を設立し、その信用力で工事契約や資金借入をしやすくし、「権利変換手法を活用して旧マンションの区分所有権と敷地利用権を一括して建替え後のマンションなどに移行させて、公平で透明なマンション再生を目ざすことである。東日本大震災を踏まえた2014年の改正では、耐震性が不足するマンション(「要除却認定マンション」)の建物の解体、敷地の売却を促す規定を導入。従来、民法で建物の解体や敷地の売却には原則として、区分所有者全員の同意が必要であったが、区分所有者の5分の4以上の賛成で可能と改めた。同時に建替えの際、容積率緩和の特例を認めた。これにより、敷地や増床分を第三者へ売却して得た資金を建築費にあてて区分所有者の負担を軽減することで、建替えや住み替えをしやすくした。2020年(令和2)の改正では、耐震性不足以外に、防火基準への不適合、外壁などの剥落(はくり)で周辺に危害を及ぼすおそれのあるものも、「特定要除却認定マンション」として再生対象に加え、容積率の緩和特例や敷地売却制度などを利用できるようにした。また、複数棟が並ぶ団地型マンションでは、敷地の一部を分割して建替え・売却できる制度も導入した。さらに、給排水管の腐食などのために衛生上有害となるおそれがあったり、バリアフリー基準を満たしていないマンションの再生にあたっては、容積率緩和の特例が適用されるようにした。

 国土交通省の調査では、築40年以上の老朽化マンションは2022年末に約126万戸あり、2040年代には400万戸を超える見込みだが、建替え平均費用(1戸当り)は344万円(1996)から1941万円(2017~2021)へ膨らんだ。このためマンション建替え件数の累計は2022年度末で282件(うち同法に基づく建替え114件)にとどまる。なお、マンションの建替え要件を定めた法律には、マンション建替え円滑化法のほか、民法、区分所有法、被災マンション法都市再生特別措置法などがある。

[矢野 武 2024年7月18日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android