マーカス(読み)まーかす(英語表記)Rudolph A. Marcus

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マーカス」の意味・わかりやすい解説

マーカス
まーかす
Rudolph A. Marcus
(1923― )

アメリカの化学者。カナダモントリオール生まれ。マッギル大学卒業後、同大学院に進学し物理化学専攻。1946年博士号を取得後、カナダ国立学術研究会議でフリーラジカルの反応を研究する。1949年にアメリカへ拠点を移して、ノース・カロライナ大学理論化学の研究を始める。1951年ブルックリン工科大学助教授。1950年代後半から1960年代にかけて、溶液中の化学反応における電子の移動は、反応する分子の構造変化によるものだとする「マーカス理論」を提唱し、この理論に基づいて、構造変化の影響を数式化し、電子移動の速度を求める式を編み出した。これにより、植物の光合成のときにおこる光エネルギーの固定の様子や、電気伝導ポリマーの伝導性などのさまざまな反応が説明できるようになり、この理論は1980年代に実験的に証明された。1964年イリノイ大学教授。1978年にカリフォルニア工科大学教授となる。前記功績により1992年にノーベル化学賞を受賞した。

[馬場錬成 2018年11月19日]

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化学辞典 第2版 「マーカス」の解説

マーカス
マーカス
Marcus, Rudolph A.

カナダ出身のアメリカの理論化学者.モントリオールに生まれる.1946年マギル大学で博士号を取得.カナダのNational Research Councilの博士研究員を経て,1949年ノースカロライナ大学の博士研究員となり,単分子反応の統計的理論に遷移状態理論を組み合わせたRRKM理論を定式化した.1951年ブルックリン工科大学にポストを得て,溶液内の電子移動の研究をはじめ,1964年イリノイ大学教授,1978年カリフォルニア工科大学教授となり,現在に至る.かれは,電子移動反応前後の溶媒,および反応分子の状態と系のエネルギー変化を定式化して反応速度の計算式を導出し,始状態と終状態の自由エネルギー差が,ある値よりも大きくなると反応速度がむしろ低下する逆転領域の存在を予言したが,これはドナーアクセプターの距離を固定して,電子移動速度を測定した結果から実証された.電子移動の理論で,1992年ノーベル化学賞を受賞した.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マーカス」の意味・わかりやすい解説

マーカス
Marcus, Rudolph A.

[生]1923.7.21. モントリオール
カナダ生まれのアメリカ合衆国の化学者。1946年カナダのマギル大学で物理化学博士号を取得。ノースカロライナ大学での研究生活後,1951年ブルックリン工科大学助教授,1958年教授。同 1958年アメリカ市民権を取得。1964~78年イリノイ大学教授を経て,1978年カリフォルニア工科大学アーサー・エイモス・ノイス記念教授に就任。1950年代から電子移動反応に関する研究を始め,溶媒分子の変化によって 2分子間で電子が飛び移りやすくなるという結論に達した。そしてそのような変化が分子のエネルギーに及ぼす影響を数式で表し,電子移動反応について測定される反応速度を説明した。この仮説のうちマーカスが「逆転領域」と名づけた部分は当初受け入れられなかったが,1985年に実験の末,存在が立証された。マーカスの理論は植物の光合成からダイオード発光まで,さまざまな現象の理解に有用である。1992年ノーベル化学賞を受賞。

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