「行進曲」と訳される。行進を規則正しく行うために用いられる実用音楽、あるいはそうした情景を描写した音楽。また実際の行進を離れて、単にマーチの形式を使用してつくられたものもある。
[田井竜一]
実用的なマーチの歴史はきわめて古く、古代エジプトやメソポタミアにまでさかのぼることができる。またローマ帝国においても、アエーネアートルaeneatorとよばれたラッパ手を中心にした大規模なマーチが演奏されていた。一方中国や朝鮮では、それぞれ鼓吹、吹打とよばれる軍楽が早くから発展し、行列や儀式の際に奏された。また14世紀ごろからトルコに大規模な軍楽隊メヘテルハーネmeheterhaneが展開し、さまざまな管楽器、太鼓類、金属製体鳴楽器によるマーチの音楽が、戦闘や式典、運動競技会の際などに演奏され、スルタンの威光の象徴になっていた。
17世紀になると、ヨーロッパにおいても軍隊が強化されるのに伴って軍楽もしだいに整備され、マーチが重要なレパートリーになるようになった。さらに18世紀後半からトルコの軍楽を模倣したヤニチャーレンムジークJanitscharenmusikが流行し、数多くの「トルコ行進曲」がつくられるようになった。その代表的な例がモーツァルト(ピアノ・ソナタ、イ長調〈K331〉第三楽章)やベートーベン(劇付随音楽『アテネの廃墟(はいきょ)』に含まれる)の作品である。またこのころから各国は競ってトルコの軍楽およびその力強い行進のリズムを輸入・模倣した。さらに19世紀に入ると吹奏楽が盛んに演奏されるようになり、数々の吹奏楽用マーチがつくられるようになった。その代表としては、マーチ王とよばれるスーザの作品(『忠誠』『星条旗よ永遠なれ』)や、ヨゼフ・フランツ・ワーグナーの『双頭の鷲(わし)の旗の下に』、カール・タイケの『旧友』、ケネス・アルフォードの『ボギー大佐』(映画『戦場にかける橋』に用いられ『クワイ川マーチ』の名で有名)などをあげることができる。
また芸術音楽に行進曲が導入されるようになったのは、16世紀におこった、戦闘描写の音楽バッタリアbattaglia(イタリア語)のなかの軍隊の行進の情景を描いたものが最初であるといわれている。その後、行進曲はしばしば芸術音楽のなかに登場するようになるが、とくに19世紀以降は歌劇や管弦楽、ピアノのための作品が数多く書かれるようになった。
[田井竜一]
おもにヨーロッパのものについていうと、二拍子(テンポの速いものに多い)と四拍子(テンポの遅いものに多い)が普通であり、複合三部形式(主部→トリオ→主部)、あるいはそれを拡大した五部形式(主部→トリオ→主部→トリオ→主部)からなることが多い。また導入部が付け加わることもある。
[田井竜一]
マーチにはその用途に応じて、さまざまな種類がある。その代表的なものは、軍隊行進曲(シューベルトのピアノ連弾用の作品やR・シュトラウスの管弦楽曲など)、凱旋(がいせん)行進曲(ベルディのオペラ『アイーダ』の凱旋行進曲など)、戴冠(たいかん)式行進曲(マイヤベーアのオペラ『預言者』の戴冠式行進曲、エルガーの『威風堂々』第一番など)、祝典行進曲(R・シュトラウスや團伊玖磨(だんいくま)の作品など)、結婚行進曲(メンデルスゾーンやR・ワーグナーの作品など)、葬送行進曲(ショパンのピアノ・ソナタ第二番の第三楽章など)である。
このほか民族音楽におけるマーチとしては、スウェーデンに婚礼や儀式の行列のためのマーチであるゴングロートgånglåtがあり、スペインには闘牛場のマーチとして名高いパソ・ドブレpaso-dobleがある。後者はのちにフランスや中南米に入り流行歌謡化している。またラテンアメリカのものでは、カーニバルのパレードのためのマーチであるコンガconga(キューバ)、マルシャmarcha(ブラジル)などがよく知られている。
[田井竜一]
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…マーチの訳。集団が行進するための伴奏音楽およびその情景を描写した音楽。…
※「マーチ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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