サイモン(読み)さいもん(英語表記)Herbert Alexander Simon

日本大百科全書(ニッポニカ) 「サイモン」の意味・わかりやすい解説

サイモン(Herbert Alexander Simon)
さいもん
Herbert Alexander Simon
(1916―2001)

アメリカの社会科学者。とくに経営学と経済学の分野で伝統的な学説を批判し、組織および意思決定の問題に新境地を拓(ひら)いた。また情報科学、認知科学、コンピュータ科学などの新しい分野の開拓者の一人であり「人工知能の創始者」と認められている。1916年ウィスコンシン州ミルウォーキーで出生。1936年シカゴ大学政治学科卒業。1943年同大学にて博士号を取得。その後カリフォルニア大学行政研究所、イリノイ工科大学教授を経て、1949年以降カーネギー・メロン大学の経営管理学の教授。1978年ノーベル経済学賞を受賞。

 初期の著書『Administrative Behavior』(1945。初版の邦訳『経営行動』は1965年発行。1976年の原著第3版増補改訂により邦訳書も1989年全面新訳)では、現代組織論の創始者チェスター・アービング・バーナードChester Irving Barnard(1886―1961)の思想の継承と発展を試み、組織の意思決定過程の分析を中心とする新しい理論枠を提出した。その後、ジェームズ・ガードナー・マーチJames Gardner March(1928―2018)との共著『Organizations』(1958。邦訳『オーガニゼーションズ』)で、その組織理論をさらに体系的に展開した。意思決定論では『The new science of management decision』(1977。邦訳『意思決定の科学』)、『Reason in Human Affairs』(1983。邦訳『意思決定と合理性』)のほか、多数の論文を発表した。

 さらに情報科学や行動科学の分野でも、『Models of Man』(1957。邦訳『人間行動のモデル』)、『The Sciences of the Artificial』(1969。邦訳『システムの科学』)のほか、理論形成と実証研究、理論の応用に幅広い活動を行った。

 サイモンは1960年以降に世界各地への歴訪を始めた。日本については、晩年の自伝的著書『Models of My Life』(1991。邦訳『学者人生のモデル』)のなかで、1969年の最初の訪日以後、10回以上も訪れた日本各地での楽しかった思い出を語っている。2001年ペンシルベニア州ピッツバーグの病院死去、84歳であった。

[土屋晃朔]

『松田武彦・高柳暁・二村敏子訳『経営行動』(1965・ダイヤモンド社)』『宮沢光一監訳『人間行動のモデル』(1970・同文舘出版)』『吉原英樹・稲葉元吉訳、高宮晋監修『システムの科学』(1977・ダイヤモンド社)』『稲葉元吉・倉井武夫訳『意思決定の科学』(1979・産業能率大学出版部)』『佐々木恒男・吉原正彦訳『意思決定と合理性』(1987・文真堂)』『松田武彦・高柳暁・二村敏子訳『経営行動――経営組織における意思決定プロセスの研究』新版(1989・ダイヤモンド社)』『安西祐一郎・安西徳子訳『学者人生のモデル』(1998・岩波書店)』『稲葉元吉・吉原英樹訳『システムの科学』第3版(1999・パーソナルメディア)』『J・G・マーチ、H・A・サイモン著、土屋守章訳『オーガニゼーションズ』(1977・ダイヤモンド社)』『H・A・サイモン、D・W・スミスバーグ、V・A・トンプソン著、岡本康雄・河合忠彦・増田孝治訳『組織と管理の基礎理論』(1977・ダイヤモンド社)』『H・A・サイモン、C・E・リドレー著、本田弘訳『行政評価の基準――自治体活動の測定』(1999・北樹出版)』


サイモン(Neil Simon)
さいもん
Neil Simon
(1927―2018)

アメリカの劇作家ニューヨークに生まれ、ラジオやテレビの台本作家を経てブロードウェーに進出。『カム・ブロウ・ユア・ホーン』(1961)での成功以来、『裸足(はだし)で散歩』(1963)、『おかしな二人』(1964)をはじめ、ほぼ1年に1作の割合でヒットを連発、アメリカを代表する喜劇作家としての地位を確立する。中産階級に属する都市生活者の人生の喜怒哀楽を、ギャグを交えた巧みな台詞(せりふ)でユーモアとペーソスあふれる喜劇に仕立て上げることに定評がある。『ジンジャーブレッド・レディー』(1970)以後は、ほろ苦い人生の実相をより作品に反映するようになり、1980年代には自伝的三部作を発表し、その第二作『ビロクシー・ブルース』で念願のトニー賞を獲得した。ほかの代表作は、トニー賞、ピュリッツァー賞を同時受賞した『ヨンカーズ物語』(1991)など。自伝に『書いては書き直し』(1996)、『第二幕』(1999)がある。映画化された作品も多く、『ブルースが聞こえる』(1988)、『ブロードウェイ・バウンド』(1991)などがある。1983年に彼の功績を記念して、ブロードウェーの一劇場がニール・サイモン劇場と改称された。

[一ノ瀬和夫]

『酒井洋子他訳『ニール・サイモン戯曲集』全5巻(1984~93・早川書房)』『酒井洋子訳『ニール・サイモン自伝 書いては書き直し』(1997・早川書房)』『酒井洋子訳『ニール・サイモン自伝2 第二幕』(2001・早川書房)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サイモン」の意味・わかりやすい解説

サイモン
Simon, Herbert Alexander

[生]1916.6.15. ウィスコンシン,ミルウォーキー
[没]2001.2.9. ペンシルバニア,ピッツバーグ
アメリカの経営学者。 1936年シカゴ大学政治学科卒業,同大学院で政治学専攻。 42年以後イリノイ工科大学助教授,同教授を経て,49年からカーネギー=メロン大学教授。アメリカ経営科学会副会長,国家調査委員会行動科学部会会長など要職を歴任。行動科学的な組織論研究の第一人者で,コンピュータ利用と意思決定などの新分野でユニークな分析を試みた。その組織理論のおもな内容は,(1) 組織における各個人の意思決定の過程に関する理論,(2) 組織における人間行動の理論,(3) 組織的均衡の理論などである。 78年には「経済組織内部の決定過程についての先駆的研究」でノーベル経済学賞受賞。主著『経営行動』 Administrative Behavior (1945) ,『人間行動のモデル』 Models of Man (57) ,"Organizations" (58,J. G.マーチと共著) ,『コンピュータと経営』 The New Science of Management Decision (60) ,『システムの科学』 The Sciences of the Artificial (68) 。

サイモン
Simon, Neil

[生]1927.7.4. ニューヨーク,ニューヨーク
[没]2018.8.26. ニューヨーク,ニューヨーク
アメリカ合衆国の劇作家。フルネーム Marvin Neil Simon。ニューヨーク大学とデンバー大学に学び,テレビの脚本家を経て,ブロードウェーに進出。主としてニューヨークを舞台に,巧みなプロット,性格づけのしっかりした登場人物,当意即妙の滑稽台詞を用いて日常生活を描く喜劇で人気を得た。代表作は『おかしなカップル』The Odd Couple(1965),『サンシャイン・ボーイズ』The Sunshine Boys(1972),自伝的色彩の濃い『思い出のブライトン・ビーチ』Brighton Beach Memoirs(1983)など。ほかにミュージカル映画のシナリオも手がけた。

サイモン
Simon, Sir John

[生]1816.10.10. ロンドン
[没]1904.7.23. ロンドン
イギリスの医師。 19世紀における衛生学の最高権威といわれる。ロンドン市最初の公衆衛生医官 (1848~55) で,下水道をつくり,各郡市もまたその指導を受けた。 1855~76年,中央政府の最初の医官となり,国の衛生行政を指導した。さらに国立研究所をつくり,権威ある報告書を公刊し,予防接種制度を確立,多くの保健法をつくった。そのなかに 66年の国民衛生法があるが,これは全国民的に,科学的,強制的に実施された最初の国民保健法である。 87年貴族に列せられ,バス勲章 K. C. B.を授けられた。

サイモン
Simon, William Edward

[生]1927.11.27. ニュージャージー,パターソン
[没]2000.6.3. カリフォルニア,サンタバーバラ
アメリカの政治家。ラファイエット大学卒業。ウィーデン社やサロモン社の重役を歴任して,1973年財務省内の要職につき,1974~77年財務長官。 1974年には石油政策委員会の議長も務めた。

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