アメリカの社会科学者。とくに経営学と経済学の分野で伝統的な学説を批判し、組織および意思決定の問題に新境地を拓(ひら)いた。また情報科学、認知科学、コンピュータ科学などの新しい分野の開拓者の一人であり「人工知能の創始者」と認められている。1916年ウィスコンシン州ミルウォーキーで出生。1936年シカゴ大学政治学科卒業。1943年同大学にて博士号を取得。その後カリフォルニア大学行政研究所、イリノイ工科大学教授を経て、1949年以降カーネギー・メロン大学の経営管理学の教授。1978年ノーベル経済学賞を受賞。
初期の著書『Administrative Behavior』(1945。初版の邦訳『経営行動』は1965年発行。1976年の原著第3版増補改訂により邦訳書も1989年全面新訳)では、現代組織論の創始者チェスター・アービング・バーナードChester Irving Barnard(1886―1961)の思想の継承と発展を試み、組織の意思決定過程の分析を中心とする新しい理論枠を提出した。その後、ジェームズ・ガードナー・マーチJames Gardner March(1928―2018)との共著『Organizations』(1958。邦訳『オーガニゼーションズ』)で、その組織理論をさらに体系的に展開した。意思決定論では『The new science of management decision』(1977。邦訳『意思決定の科学』)、『Reason in Human Affairs』(1983。邦訳『意思決定と合理性』)のほか、多数の論文を発表した。
さらに情報科学や行動科学の分野でも、『Models of Man』(1957。邦訳『人間行動のモデル』)、『The Sciences of the Artificial』(1969。邦訳『システムの科学』)のほか、理論形成と実証研究、理論の応用に幅広い活動を行った。
サイモンは1960年以降に世界各地への歴訪を始めた。日本については、晩年の自伝的著書『Models of My Life』(1991。邦訳『学者人生のモデル』)のなかで、1969年の最初の訪日以後、10回以上も訪れた日本各地での楽しかった思い出を語っている。2001年ペンシルベニア州ピッツバーグの病院で死去、84歳であった。
[土屋晃朔]
『松田武彦・高柳暁・二村敏子訳『経営行動』(1965・ダイヤモンド社)』▽『宮沢光一監訳『人間行動のモデル』(1970・同文舘出版)』▽『吉原英樹・稲葉元吉訳、高宮晋監修『システムの科学』(1977・ダイヤモンド社)』▽『稲葉元吉・倉井武夫訳『意思決定の科学』(1979・産業能率大学出版部)』▽『佐々木恒男・吉原正彦訳『意思決定と合理性』(1987・文真堂)』▽『松田武彦・高柳暁・二村敏子訳『経営行動――経営組織における意思決定プロセスの研究』新版(1989・ダイヤモンド社)』▽『安西祐一郎・安西徳子訳『学者人生のモデル』(1998・岩波書店)』▽『稲葉元吉・吉原英樹訳『システムの科学』第3版(1999・パーソナルメディア)』▽『J・G・マーチ、H・A・サイモン著、土屋守章訳『オーガニゼーションズ』(1977・ダイヤモンド社)』▽『H・A・サイモン、D・W・スミスバーグ、V・A・トンプソン著、岡本康雄・河合忠彦・増田孝治訳『組織と管理の基礎理論』(1977・ダイヤモンド社)』▽『H・A・サイモン、C・E・リドレー著、本田弘訳『行政評価の基準――自治体活動の測定』(1999・北樹出版)』
アメリカの劇作家。ニューヨークに生まれ、ラジオやテレビの台本作家を経てブロードウェーに進出。『カム・ブロウ・ユア・ホーン』(1961)での成功以来、『裸足(はだし)で散歩』(1963)、『おかしな二人』(1964)をはじめ、ほぼ1年に1作の割合でヒットを連発、アメリカを代表する喜劇作家としての地位を確立する。中産階級に属する都市生活者の人生の喜怒哀楽を、ギャグを交えた巧みな台詞(せりふ)でユーモアとペーソスあふれる喜劇に仕立て上げることに定評がある。『ジンジャーブレッド・レディー』(1970)以後は、ほろ苦い人生の実相をより作品に反映するようになり、1980年代には自伝的三部作を発表し、その第二作『ビロクシー・ブルース』で念願のトニー賞を獲得した。ほかの代表作は、トニー賞、ピュリッツァー賞を同時受賞した『ヨンカーズ物語』(1991)など。自伝に『書いては書き直し』(1996)、『第二幕』(1999)がある。映画化された作品も多く、『ブルースが聞こえる』(1988)、『ブロードウェイ・バウンド』(1991)などがある。1983年に彼の功績を記念して、ブロードウェーの一劇場がニール・サイモン劇場と改称された。
[一ノ瀬和夫]
『酒井洋子他訳『ニール・サイモン戯曲集』全5巻(1984~93・早川書房)』▽『酒井洋子訳『ニール・サイモン自伝 書いては書き直し』(1997・早川書房)』▽『酒井洋子訳『ニール・サイモン自伝2 第二幕』(2001・早川書房)』
アメリカの経営学者。ウィスコンシン州に生まれ,1936年シカゴ大学を卒業,同大学大学院に進み43年政治学の博士号を獲得した。イリノイ大学を経て49年からカーネギー・メロン大学経営管理学教授。その業績は行政学,経営学,経済学,社会学,心理学など多岐にわたり,それぞれの分野で第一級の評価を受けている。78年ノーベル経済学賞受賞。経営管理論,経営組織論に対する彼の貢献は,〈意思決定〉という概念に集約できる。彼の組織観は,(1)人間はアリ(蟻)同様きわめて単純な行動システムであり,その認知能力には限界がある,(2)それゆえ人間の意思決定は,合理性を志向しながらも経済学で使用する極大化基準というよりは,満足化基準に依拠せざるをえない,(3)その範囲で最大の合理性を確保するために組織構造(階層的システム)を構築し,組織内情報処理を単純化することによって個人の認知能力を克服する,というものであった。さらにサイモンは,組織における人間行動を説明するには,社会学における行為や役割といった概念では不十分であり,より分析単位を小さくした個人の意思決定前提にまでつめる必要があると主張した。このような考え方は,C.I.バーナード理論を継承発展させた《経営行動》(1945),およびそれまでの組織理論を統合した《組織》(1958)に表されている。
執筆者:野中 郁次郎
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…学問の基本的性格を問う科学性または方法論に関する模索は今日の経営経済学においても依然として踏襲されており,批判的合理主義,構成主義ならびに批判主義(フランクフルト学派)は,方法論上の立場を代表している。H.A.サイモンの意思決定論が広く管理論の主流をなしている現状からすれば,ドイツ経営学の立場もアメリカ経営学の立場も理論上接近をみせつつあるといえよう。【高橋 俊夫】
【アメリカ経営学】
現実の社会のなかで,組織体を通じて行う経済活動の重要性が高まっていくにつれて,これに対する科学的研究の必要性が意識されるようになってきた。…
…すでに述べたように,人間関係論の影響が大きくなると,組織の問題においてフォーマル組織と並んでインフォーマル組織が強調されたり,また管理者リーダーシップが強調されるようになる。
【〈組織的意思決定論〉〈動機づけ理論〉のインパクト】
一方,C.I.バーナードに始まり,H.A.サイモンによって発展させられた意思決定論の影響もあらわれてくる。すなわちそこでは,経済人の超合理性と人間関係論の情緒性のどちらにも組みしない人間観――情緒的に反応するだけではなく,情報収集の能力と将来結果の計算能力において現実に制約をもっており,その制約の内で合理的に満足できると思われる代替案の選択=意思決定を行うところに管理人(かんりじん)administrative manの基本特性を見いだす人間観を提出する。…
※「サイモン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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