日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤツメウナギ」の意味・わかりやすい解説
ヤツメウナギ
やつめうなぎ / 八目鰻
lamprey
頭甲綱ヤツメウナギ目ヤツメウナギ科Petromyzonidaeの魚類の総称。体はウナギ形であるが、口は吸盤状であごに骨がなく、鼻は頭の背面に1個ある。目の後方に1列に並んだ7個の鰓孔(さいこう)があり、これと目をあわせてヤツメウナギとよぶようになった。体色は暗褐色か暗青色。全長は小さなもので15センチメートル、大きなもので80センチメートルを超え、ヌタウナギを含め無顎類とよばれる。
[落合 明・尼岡邦夫]
生態
北半球では北緯30~70度、南半球では南緯32~60度に分布し、30種余りが知られている。しかし、その大部分は北半球におり、南半球には4種しかいない。一生、淡水で生活する陸封型と、変態後は川から海へ入って何年か海洋生活し、産卵のため川へ帰る降海型とがある。いずれの型でも、春から夏にかけて上流で産卵する。浅くて流れが緩やかで、川床に小石や砂が堆積(たいせき)している場所が産卵床となる。産卵床の中に産み付けられた受精卵は、発生して2週間余りで孵化(ふか)する。全長7ミリメートルぐらいになると川を下り、有機質の多い砂質の川床を選んで孔道を掘り、その中に潜む。この時期の幼体をアンモシーテス幼生ammocetesといい、目が皮下に埋没し、口内に歯がなく、繊毛運動により珪藻(けいそう)や小形の動物プランクトンを食べる。普通3~5年間のアンモシーテス期を終わったのち、夏に変態し、4週間余りで若魚となる。この間に増水すると夜間に流れに運ばれて海または湖へ入る。
変態後も、淡水で餌(えさ)をとらないで成熟する非寄生型は、小形である。寄生型は変態後、大形の魚の外部に吸着し、鋭い歯で皮膚を破り、口の中にある1対の口腔腺(こうこうせん)からランヘリデンlanpheridinという粘液を出し、これで寄主の血液の凝固を防ぎ、赤血球や筋肉を溶かして食べる。このため、サケ・マス類など有用魚に致命的な被害を与えることがある。
[落合 明]
種類
日本にはミツバヤツメEntosphenus tridentatus、カワヤツメLethenteron japonicum、スナヤツメ北方種Lethenteron sp.N、スナヤツメ南方種Lethenteron sp.S、およびシベリアヤツメLethenteron kessleriの5種のヤツメウナギ類が分布している。ミツバヤツメは海、湖沼、大きな河川に回遊する寄生性の種で、上口歯板が3尖頭(せんとう)であること、内部側唇歯が4対あることなどで、2尖頭の上口歯板と3対の内部側唇歯をもつ他種と容易に区別できる。スナヤツメの2種は小型で、一生河川で生活し、非寄生性である。両種は尾びれの後端が淡色であること、筋節数が少なくて49~66であることなどでカワヤツメおよびシベリアヤツメと異なる。カワヤツメはシベリアヤツメにきわめてよく類似するが、前種は背びれの先端が淡色で、海に回遊し、ほかの魚に寄生する。後種は背びれの先端が黒くて、河川に残留し、海に入らないで、非寄生性である。環境省レッド・リスト(2013)ではカワヤツメとスナヤツメの2種はともに、絶滅の危険が増大している種である「絶滅危惧Ⅱ類」に、シベリアヤツメは存続基盤が脆弱(ぜいじゃく)な種である「準絶滅危惧」に、栃木県のミツバヤツメは地域的に孤立している個体群で絶滅のおそれの高いものである「絶滅のおそれのある地域個体群」に指定されている。
[落合 明・尼岡邦夫]
食品
脂質、ビタミンA、B1、B2を豊富に含んでいる。とくにビタミンAを多く含み、昔から夜盲症の薬やスタミナ食とされてきた。生のものは開いて蒲(かば)焼きやみそ漬けにする。保存には皮付きのまま乾燥する。秋田県には郷土料理として「やつめうなぎ鍋(なべ)」がある。ヤツメウナギをぶつ切りにして、ネギ、豆腐、生シイタケなどを取り合わせ、みそ仕立て、あるいはしょうゆ、酒などで調味しただし汁で煮ながら食べる。
[河野友美]