ヨーロッパの鉄器時代文化。前5世紀,先行するハルシュタット文化の系譜を継いで,現在のフランス東部からライン川中流域,ドイツ南部に至る地域で始まり,その後広くヨーロッパ中部,西部地域に広がって,前1世紀まで存続した。1857年,鉄製の武器や装身具など多量の遺物が発見された,スイスのヌシャテル湖北岸のラ・テーヌLa Tène遺跡によって命名された。ギリシア,ローマの古典時代作家の記録や,カエサルの《ガリア戦記》に登場するケルト人の残した文化とされている。
この文化に特有の遺跡としては,初期に多い首長墓と,後期に属するオッピドゥム(オピドゥム)oppidumがある。首長墓は,木室をもつ墳丘墓で,なかに4輪または2輪の車両を納め,ギリシアやエトルリア製の陶器や金属容器など,豊富な副葬品を伴っている。一般にみられる墓室や墳丘を欠き直接土中に埋葬した墓とは隔絶したものとなっており,この文化を生んだケルト人社会が,早くから明確に階層分化していたものであったことをうかがわせる。オッピドゥムはもともと周囲を土塁と濠とで防御した場所を指すが,後期ラ・テーヌ文化の特徴とされるオッピドゥムの遺跡は,たとえばドイツのバイエルン州にあって約38haの面積を占める最大級のオッピドゥムであるマンチンManching遺跡では,城門と城壁を備え,なかに神殿があり,街路と大小の木造住居が配され,鍛冶,鋳造,ガラス製造などの各種手工業工房に加えて,貨幣製造所があったことなどが発掘によって明らかにされている。オッピドゥムは単なる避難所的な城塞ではなく,その地域の政治・経済の核となる城塞都市とでも呼びうるものであって,その存在からケルト社会の成熟度の高さをうかがえる。
ラ・テーヌ文化の特徴とされるものの一つに,手工業製品を飾る特有の様式の図像文様がある。その多くは,たとえば貨幣がマケドニアやギリシアの貨幣の模倣から始まったように,もともと地中海の古典古代文明の図像文様に起源し,それを換骨奪胎,特有の図像文様様式に転化させたものであった。それは前3世紀末から前2世紀ころ最盛期を迎えるが,以後,社会的・経済的成熟の象徴ともいえるオッピドゥムが盛行することになると,イギリス諸島を除いて衰退していったのは興味深い。
ラ・テーヌ文化は,前1世紀,北進するローマの勢力と西進するゲルマンの勢力に押されて消滅する。わずかにアイルランドとグレート・ブリテン島高地地帯に,その系譜に連なる文化がその後も残存する。
→ケルト人
執筆者:田中 琢
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紀元前5~前1世紀にわたって中部ヨーロッパを中心に発達した鉄器時代の文化。その最盛期には、イングランドやピレネー山脈にも及んでいる。文化の名称は、スイスのヌーシャテル湖岸にあるラ・テーヌ遺跡からとったもので、この遺跡は、1907~17年にわたって組織的な発掘調査がなされた。その際、杭や丸太を渡した道路遺構や多数の木器、鉄器、青銅器類を出土したが、とくに鉄製の武器類が3分の1以上を占めていた。同文化の後半に営まれた祭祀(さいし)的な奉納地とみる説が強い。同文化の分布圏がケルト人の分布と重なるため、彼らの残したものとされ、剣の柄頭(つかがしら)や留針(とめばり)にある独特の曲線文は同文化を象徴している。
[前田 潮]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
ヨーロッパ鉄器時代後半期の文化。1774年スイス,ヌーシャテル湖東岸のラ・テーヌ遺跡で発見されたことにちなむ。騎馬および戦車を主体とするケルト人による文化で4期に分かれる。武器,武具,車馬具,農工具,装身具などに金工術の粋を集めている。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
…ケルト美術は,ヨーロッパの第二鉄器時代に当たるラ・テーヌ期(前5~後1世紀)の美術を指し(ラ・テーヌ文化),地域によっては(アイルランド,グレート・ブリテン島など),その伝統がさらに8世紀あまり続いた。従来はケルト美術を中部ヨーロッパの第一鉄器文化(いわゆるハルシュタット文化,前12世紀~前6世紀)にまでさかのぼらせていたが,近年はハルシュタット美術とラ・テーヌ美術はごく限定された影響関係(技法,動物主題,陶器などについて)をもつにすぎないとされるようになった。…
※「ラテーヌ文化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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