死体を収める木製の容器を木棺と総称する。ただし日本で近世以降に用いた棺桶は,木製ではあるが,ふつうは木棺と呼ばない。木棺の構造を大別すると,刳抜き式と組合せ式とになる。古墳時代の刳抜き式木棺は,縦に二つに割った樹幹を分割面から刳りくぼめて断面U字形に作り,それぞれを身および蓋としたものが多い。長さは3~7mと一定しないが,その形の類似から割竹形(わりたけがた)木棺と呼んでいる。割竹形木棺の両端は,節(ふし)の形に刳り残すのではなく,円形板を内部にはめこんだり,方形板を外部からあてて,身と蓋との共通の端面を構成したようである。なお,身を断面U字形の1材で作らずに,断面L字形に刳った2材を接合して用いた木棺が,5世紀の大阪府土保山(どぼやま)古墳にある。断面がU字形の場合は樹心部を刳り除くが,断面をL字形にすると隅角に樹心部を使うことになる。いずれも丸木舟の製法として経験した技術の応用である。また同じように縦に二つに割った樹幹を用いても,刳り抜く範囲を狭くして,長さも幅も全体の6割程度にとどめた木棺が6世紀にあって,栃木県七廻り鏡塚古墳から出土している。
組合せ式木棺は,少なくとも身の底・両側辺・両端辺と蓋との6個の部材を必要とする。これを組み立てる場合には,身の両側辺の間に底を挿入するか,身の両側辺を底の上にのせるかのちがいがあり,また身の両端辺を両側辺の間にはめるか,両側辺の外からあてるかのちがいができる。古く殷代から木棺を使用していた中国では,これらの種々の組立て方が戦国期にみな出現していた。また組立て方は同じでも,蓋および両側辺の外観に丸太の曲面を残した弧棺から,それを平面に仕上げた方棺への移行も終了していた。その方棺の場合には,長沙馬王堆漢墓で有名になったように,外棺・中棺・内棺と三重の木棺を使用し,それぞれの棺の外面を漆絵で装飾するまでにいたった。日本でも弥生時代から組合せ式木棺を使用しているが,それは身の両側辺を底の上にのせ,両端辺を両側辺の間にはめる構成のものである。ただし中国の戦国・漢代の組合せ式木棺が,死体を収めたまま運搬できる容器になっていたのに対して,底板の固定法が判明していない日本の木棺は,墓所への運搬に役だったか否かわからない。組合せ式木棺の組立て方とその変遷は,その文化における木材工芸の発達をよく反映しているのである。
執筆者:小林 行雄
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遺骸(いがい)を納める木製容器の総称。製作法によって刳抜(くりぬき)式と組合せ式とに分類され、基本的な形として刳抜式に割竹形木棺、組合せ式に箱式(形)木棺がある。弥生(やよい)時代に木棺が用いられていることは、土壙(どこう)に残る棺の形の痕跡(こんせき)によって推定されていたが、1960年代になって兵庫県尼崎(あまがさき)市田能(たの)、大阪府豊中(とよなか)市勝部、高槻(たかつき)市安満(あま)、東大阪市瓜生堂(うりゅうどう)などの遺跡で相次いで箱式木棺が発掘された。これらの遺跡は低地集落で、集落に接した墓地に木棺が埋められていたため、地下水によって保存された。古墳時代になると、箱式木棺も使われたが、畿内(きない)地方を中心とした前期古墳では、長さが7~8メートルに達する巨大な割竹形木棺が盛んに使われ、弥生時代の短い木棺と異なる。これらの長大な木棺の材質はコウヤマキで、また内部には1人の遺骸しか納めてないので、単なる棺か、それとも舟などを模倣したのか議論が分かれている。古墳時代の中・後期には短い箱式木棺が使用され、とくに横穴式石室採用直前の群集墳ではこれを直接盛土で覆っていて、それを木棺直葬(ちょくそう)とよぶ。終末期には高松塚古墳のように漆塗り木棺も使用されている。
[森 浩一]
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…原則的には直接遺骸を入れるものを指し,火葬や洗骨後の骨を納める蔵骨器と区別する。材質により,木棺,夾紵(きようちよ)棺,石棺,陶棺などに,また形状によって,割竹形,舟形,家形,長持形などに分けられる。石棺と木棺が普遍的であり,これらはさらに組合せ式と刳抜(くりぬき)式に区別できる。…
…古墳の封土中に,石室の被覆を設けずに,直接に木棺を埋める場合に,木棺の周囲を粘土で厚く包みこむことがある。棺の外部構造という意味で,これを粘土槨という。…
※「木棺」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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