日本大百科全書(ニッポニカ) 「ランゲッサー」の意味・わかりやすい解説
ランゲッサー
らんげっさー
Elisabeth Langgässer
(1899―1950)
ドイツのカトリック女流詩人、小説家。ラインヘッセン出身。ベルリンで教師、婦人学級の講師を務めた。アンネッテ・ドロステ・ヒュルスホフやウィルヘルム・レーマンの影響を受けた自然叙情詩によって知られるようになり、詩集『仔羊(こひつじ)の回帰線』(1924)や小説『プロゼルピナ』(1932)などを発表したが、ナチス時代には半ユダヤ人を理由に執筆禁止、強制労働に従事させられた。戦後発表された『葉人(ようじん)とバラ』(1947)、『変容詩集』(1951)などの詩集や『消えない印』(1946)、『マルク地方のアルゴー号巡礼』(1950)などの小説では、異教的、古典古代的神話の形象と方法とがキリスト教的歴史観のなかに取り入れられて、両者の融合が図られ、新しいキリスト教文学の可能性が追究されている。代表作『消えない印』は、主人公のユダヤ人キリスト教徒の運命を、暗いリアルな筆致と大胆な性的描写、自然的時間の流れを無視した場面構成によってたどりつつ、救済史としての歴史のなかに位置づけようとした果敢な試みであり、洗礼の秘蹟(ひせき)、罪と恩寵(おんちょう)、神とサタンの対立など、きわめて神学的なテーマを扱っている。
[横塚祥隆 2017年12月12日]
『渡辺健訳『マルス』(『ドイツ短篇24』所収・1971・集英社)』